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ゴースト・トロピックのOKkynのレビュー・感想・評価

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
3.7
バス・ドゥヴォス2作品目。
今度はずっと夜。でもなんか毛布に包まれているかのベルベットな肌触り。地下鉄で寝過ごして家に帰るまでの一夜の話。主人公はブリュッセルに暮らす移民の女性。すごい寒そうなんだけど、なにか怖いことが起きそうな気はまったくしない。夜はやさし。

主人公は清掃員をしていて、こっちに来て20年、夫とは死に別れ、成人した息子と17歳の娘がいることがわかってくるが、それがどこの国かはわからない。母はスカーフやマフラーで髪の毛を隠しているが、夜遊びをしている娘はスカーフなし、飲酒もしている。それをみてわなわなする。

今回も16ミリ。前回以上に詩情的な映像で、地下鉄で眠ってしまうシーンの光と音、街を歩くときの目線の、だけどなめらかに移り変わる風景、路上生活者と犬など、やっぱりやさしいまなざしとともにある夜が映し出される。

音楽もまた、彼女のひとがらを表すかのようにストレートにやさしい。here.は、エレピのい音が印象的だったけど、今作劇中はずっとアコースティックギターで、埋め尽くさない隙間の多い楽曲が音が歩くリズム、夜の粒子のような空気感とよくあっていた。

はじまりは、日が落ちていく部屋の情景。ここが自分の家で、ここで苦労なく暮らしていくときめた、それはとてもたいへんなことだった、この家を知らない人がみたらどう思うだろう、、ということがナレーションされていた。

きれいな光、暮れていく中.生活感があることはわかるが、どんなひとが暮らしているかはわからない。

最後は、主人公がでかけたあとに明るくなってくる部屋。こんどは、彼女のことを、一晩寄り添っていたかのように知っているので、20年間、どんなふうに暮らしてきたのか、その片鱗が見えた気がして、胸が熱くなった。

「映画を作るのは、世界をどう理解するか、どう解釈するかをつかむための行為。芸術家にはそういう感覚の人が多いのでは」と話す。

「音は一言でいうなら映画を生きものにさせる。映画の50%以上は音でできていると言ってもいいかもしれない。人(観客)のイメージを開かせることができる」(監督インタビューより)
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