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ゴースト・トロピックのギルドのレビュー・感想・評価

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
4.5
【ブリュッセル、とある一期一会と見守る眼差しの融和と循環】
■あらすじ
掃除婦のハディージャは、長い一日の仕事終わりに最終電車で眠りに落ちてしまう。
終点で目覚めた彼女は、家へ帰る手段を探すも、もはや徒歩でしか帰れないことを知る。寒風吹きすさぶ街を彷徨い始めた彼女だったが、予期せぬ人々との出会いを通じ、その小さな旅路は遠回りをはじめ――。

現代ヨーロッパの縮図とも言えるブリュッセルを舞台に、真夜中の一期一会がもたらす温もりが優しく心をつつむ、奇跡の長編3作目。

■みどころ
傑作。
ある清掃員の真夜中の一期一会を映したお話。
真夜中に様々な人物との出会いを描く…というのは国柄も相まってシャンタル・アケルマン『一晩中』を彷彿させる。もっと言えば同時期に公開された『Here』もシャンタル・アケルマン『家からの手紙』ぽさを感じるので、これは何らかのオマージュだと受け取っている。

映画はハディージャの自室を映すシーンから始まる。自室は徐々に暗くなり「これが私の見えるもの」から始まるモノローグと共に、自室には目に見えるものだけでなく自室の空間に滞留した苦労・軌跡がある。そしてそれらは残り続ける…という印象的なモノローグで映画はタイトルコールへ続く。

ハディージャは仕事終わりに終電に乗るも寝落ちしてしまう。
そこからトボトボと歩いて帰るが、ATMのある閉店しそうなショッピングモールの警備員、警備員から教わった夜行バス、弱ったホームレスに寄り添う野良犬、ガソリンスタンド併設のコンビニと店員…と様々な場所で様々な人物に出会う。
ハディージャは人柄なのも相まって苦しんでいる人に声を掛けたり行く末を案ずるなど他社に献身的である事が伺える。
その中でハディージャは娘を目にするが…

本作は『眼差し』の映画である。
シャンタル・アケルマン『一晩中』のような展開であり、真夜中特有の半廃墟のようなディストピア感とそれに合わなさそうな優しい音楽・自然音の調和によってブリュッセルという都市とは思えないファンタジーさを現出していて良かったです。
しかも、本作は音楽の演出・かけるタイミングが絶妙で絵作りにおいては『Here』よりも好きです。

そんな本作は誰かの表情を映し続けて、その人が抱えている感情という無形の存在を静かに映す。
顔の表情を映し続ける…というのはジブリ映画では十八番ではあるが、ジブリっぽさに先述した音の絶妙な挿入が高級感を持たせていて良かったし、何よりも「眼差し」によって「誰かが抱える想い」に温かい着地を与えていて、そこが良かったです。

そして映画はハディージャの帰宅・出勤と共に映画冒頭のハディージャの自室で幕を閉じる。
冒頭とは対照的に真夜中のハディージャの自室は夜明けと共に少しずつ明るくなり、ブリュッセルの街から喧騒の音が蘇る。
映画は真夜中の一期一会であっても優しさ・見守る眼差しは確かに存在するが、それは夜明け前の魔法のようなものである事を指し示す。
冒頭のモノローグにもあった『誰かの苦労・軌跡』がブリュッセルの誰もいない都市故に色濃く映り、それらがここにいると伝えるようにランダムな玉ボケと重ね合わさっていく。

誰かのちょっとした優しさが真夜中のブリュッセルの中ではマジカルな出来事のように映し夜明けと共に玉ボケのように消えていくのだ。

けれどもハディージャの自室を映す事で夜明けと共に生活も、真夜中のマジカルも循環する姿を明示していく姿に感動しました。
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