くりふ

ゴースト・トロピックのくりふのレビュー・感想・評価

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
3.5
【回帰線を寝過ごして】

『Here』の後から見た。ダイレクトに沁みたのはアチラ。コチラは見たあと時間差で、すこし沁みた。

深夜勤務の掃除婦。終電メトロで転寝し…気づけば終点。20年間、こんなことなかったのに…。

そして、徒歩∞分の帰路が“大人の寄り道”に変貌する。移民が交錯する街、ブリュッセルの長い夜。

まず、タイトルからの醸し方が巧い。Tropicは熱帯より、“回帰線”という意味の方を、主だと感じる。始まりと終わりを“フロム・ダスク・ティル・ドーン”でサンドしたのも、そういう意図ではと。

毎日規則正しく昇り落ちる、太陽の動き幅。機械のようで違う、どっちかいえば生命の象徴。

主人公…小さな太陽ハディージャは、転寝から熱帯…回帰線の外へと出てしまい、ブリュッセルの夜と人々を小さく、照らしたり、照らされ返したりしてゆく。

ブリュッセルは治安がよいんだね。それが前提になっているが、住民はやはり身を護るため、ドライな仮面を被っている。しかし、太陽には少しづつ感応する。クールとホットの使い分け。本作は人間の、距離と温度についての物語だと思う。

構成は夜のスケッチだから、取り留めないといえばそうでしょう。が、ハディージャの娘がね…アレも、回帰線を超えたからこそ見られた姿。このエピソードが、本作のスケッチを強引に、ペーパー差しでも使ったように、強引にひとつに串刺している。やっぱり、血のつながりは別格なんだよね。

とはいえ、大仰な感動作に持ち上げないことが、本作の大切な矜持。意図としては、個人的感覚だと、観客に編集を任せるような仕上がりだと思う。

もしかして、移民の理想的な距離感…イミグレーション・ディスタンスを描いているのかもしれないな。

<2024.5.1記>
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