りょう

ゴースト・トロピックのりょうのネタバレレビュー・内容・結末

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

掃除婦のムスリムの女性ハディージャが電車で眠りこけてしまい、エルマンドゥブルー駅からアンデルレヒトまで帰るロードムービー。

ベルギー人監督のロードムービーといえば、アケルマンの『アンナの出会い』を思い浮かべますが、より個人に、より街に焦点を当てた感じです。

冒頭でバディージャが「街の音、鳥の歌声を聞きます」という言葉がある通り、各所でそれらが重要な役割を担っています。

電車で寝てしまうシーン、イヤホンは着けているもののそこで流れているものは鳥のさえずりでした。

撮影方も特徴的で16mmフィルムを採用しており、どこか哀愁があります。

こちら側に歩いているが、引きで離れていくカット、鏡に映るバディージャ、ガスストのドアに映るバディージャなど、遠目からのカットにも力を入れていますね。

写真のような固定した長回しも魅力を増しています。電車のシーンの背景とバディージャだけしか映さない、駅で止まるも乗客を映さないところに、こいつだけを見てくれという意思を感じました。

光の輪とかギターの音とかのちょっとしたアクセントもグッとくるものがある。実体はないけど、車目線で道路を進んでいくカメラワークも。

本作は社会問題にも多く切り込んでおり、移民、貧富、そして離婚といった問題。

特にベルギーは離婚率71%という世界1位を誇る国なんですが、そこは触れずにはいかんだろうと言わんばかりに、マーゴットロビー似のガスストの店員さんに押し付けたのでしょう。

その店員さんの心情描写にも驚きました。

当初のやり取りでは「もうすぐ閉店しようと思いますが、その頃には飲み終わるでしょうね」と、どこかバディージャを嫌厭する雰囲気だったのですが、バディージャの放って置けない姿を見て、「自宅は遠いの?送りましょうか」って言う心変わりするような描写はすごい好きですね。

その後のBM3シリーズの車内での「車は会話のために作られている」っていう言葉もオシャレでかっこいい。

ベリエ?の家に寄るシーンもかなり好きで、個人宅も元々掃除していたということは、今よりも稼ぎがあったのではないかと想像を膨らませられるのが良い。

娘の夜遊びアルコール摂取とか、凍死しそうなホームレスとかの弱者が弱者を助けるような展開、移民ではあるものの娘と自分の立場は全然違う故の悲しさとか、上手く描かれていると思います。

最後の犬はどうなったのだろう?という解釈を委ねる感じも嫌いではない。

そこから言葉無くして、最初と真逆の部屋描写、娘の躍動感、波の音といった監督の伝えたいものが詰め込まれています。クレジットも今までにないものでマジで感動した。

バ・デヴォス監督はインタビューでブリュッセルについて、

『「ゴースト・トロピック」で焦点を当てたムスリムの女性だけではなく、ほかにもいろいろな国から来た移民がいっぱい存在している。そういった少数者がいっぱい集まってひとつの社会が構成されている』と語っているように、ぼぼ外国人みたいです。

我々日本人には馴染みがないけど、75%は他の国から来たっていうから、色んな国の価値観を受容している街なんだろうなとも感じる。良き👍🏾
りょう

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