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ノスタルジア 4K修復版のMrSeepのレビュー・感想・評価

ノスタルジア 4K修復版(1983年製作の映画)
4.9
“NOSTALGHIA”(ノスタルジア)
原題はロシア語をアルファベット表記したもの。
ロシア人が外国に旅行へ行くと、必ず強く襲いかかる死に至る病いに近いとさえ言える独特の感情、だとタルコフスキーは言う。


とても素晴らしい芸術的で美しい作品。
映画は最も五感で感じることのできる芸術だと思う。
神秘的な自然の風景を眺めてると、言葉では表現が難しいけどなんか感動した、凄かった。というときがある。
そんな感覚がこの作品にもあった。

作品全体を通して「水」による映像音響の美しさが堪らない。廃屋の水が滴り続けるあの描写は美しい。
雨音や水の滴る音は“音楽”として、水の足音は“テンポ”として、タルコフスキーはそれらに意味を与えた。

水・火・霧・光・影はこの作品の5大要素。
これらの自然が、ロシア人の土着精神に紐づいてノスタルジアを沸き起こすのかもしれない。故郷を想う気持ちをこそ“ノスタルジア”なのかもしれない。

後半は文学的な意味を持つ内容に転換されている。
それぞれの情緒や会話の繋がりを汲み取ることができる。どれも示唆的で、とても難解だ。

解釈するのはとても難しいと思う。
モノクロシーンはおそらく、タルコフスキーが表したい“ノスタルジア”で、夢と現が混在する世界(アンドレイの感情)。
ロシア人の憂鬱性こそ、ロシア人としての誇りであるのか? ロシア文学も憂鬱さが多くて書きっぷりが凄いし。
分からないからこそ面白い。
(1 + 1 = 1の謎が頭からはなれないし...

最後、火は灯し続けることができたが、アンドレイは倒れていまった。
そして有名な象徴的建造物と故郷の風景で終わる。
救済であったのか、ロシアの土壌主義的な故郷への帰結を意味するのか、ラストの不透明感も作品としての意味と重みを十分に引き立てている。

火を灯し続けることでさえ、人には難しい。
人生の険しさと男女の哲学が最高な一作。
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