silk

もっと遠くへ行こう。のsilkのレビュー・感想・評価

もっと遠くへ行こう。(2023年製作の映画)
4.7
この映画全体に漂う絶望感や、観ている最中に湧き上がった混乱が、最近の私の感情と似ていて、ただただ悲しくなった。

●絶望感
人間によって利用され破壊し尽くされた自然、モノの様に扱われる動物の命、国家から見捨てられた地方都市、数十年/数百年と変わらない家父長制。
日本の片田舎で一次産業に携わる者として、日常でジワジワと感じる絶望感をこれでもかと煮詰めた様な設定。しかも「40年後の近未来」という設定が、私の未来への不安感を完全に体現。
そして邦題『もっと遠くへ行こう』の様に私自身も遠くへ行こうとしているのだが、この映画の"いずれ地球には住めなくなる"という設定の様に、遠くへ行くことはその場しのぎでしかないのだということを暗示。

●混乱
映画の状況を理解するのに、それなりの時間と思考を要するのだが、そんな私を置いて映画はどんどん進んで行く。
世界がどの様にできているか、世界で何が起きているか、私は理解できていないし一生できないだろう。ヘンが人間ジュニアとAIジュニアの間で混乱していた様に、私も何が"本物"で何が"偽物"なのかよく分からない。
ずっと頭が混乱している中で、ちぐはぐな言葉や反応しか出てこないし、これがコミュニケーションなのか不安になるし、そのせいで人を傷付けても謝るのにはもう遅い。ヘンがAIジュニアを利用していた様に、私もただ誰かを利用したいだけなのかもしれないけど、でもちゃんと愛はあるし大切にしたいという気持ちもある、と思う。

もう何も分からないのなら、権力側から与えられた"偽物"を、"本物"だと、これが幸せだと、信じ込んで生きれば良いのかもしれないけど、この映画の様に、権力側からすればこちらはただの実験対象でしかないので、ただただ鬱。

意味不明なポエムと自語りだけで終わらない様に普通っぽい感想を補足すると、シアーシャ・ローナンとポール・メスカルでキャスティングした人に直接お礼申し上げたいのと、ポール・メスカル96lineは衝撃すぎ。
silk

silk