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まだ明日があるのakrutmのレビュー・感想・評価

まだ明日がある(2023年製作の映画)
4.1
戦後間もない1946年の男性優位社会のローマを舞台に、日常的に夫から肉体的にも精神的にも虐待を受けている主婦が、娘の幸せを願いながら徐々に立ち上がっていく姿をコメディタッチで描いた、パオラ・コルテッレージが監督、脚本、主演の三役を手掛けたコメディ・ドラマ映画。いくつものコメディ作品に出演して女優としての確固たる地位を築いてきた彼女が監督業に初挑戦した作品で、『バービー』や『オッペンハイマー』などのハリウッド大作を抑えて2023年のイタリア興行成績1位となる大ヒットを記録した。

個人的に鑑賞前の期待が大きかったが、その期待に見合うだけの作品だった。シリアスな問題をテーマに取り上げながらも、それらをシリアスに表現するのではなく、コメディという道具(彼女の言葉だと「コメディという言語」)を用いて娯楽映画として仕上げる手腕は素晴らしいと思う。最近、パオラ・コルテッレージが主演した作品をいくつか鑑賞したが、本作よりもコメディ色が強いとはいえ、本作と同様の特徴を備えている。これらの作品での彼女の経験(例えば、彼女の主演作『これが私の人生設計』では、現在にも残るイタリアの男性優位社会がテーマとなっている)が、監督としての本作の成功につながっているのだろう。

さらに、コメディとおよそ相容れないDVシーンをミュージカル風のダンスで表現するなどの演出は斬新である。この表現方法が成功するか失敗するかは紙一重と言えるが、パオラ・コルテッレージが監督しながら演じたという側面が大きいだろう。一方で、夫を演じたヴァレリオ・マスタンドレア(『甘き人生』や『おとなの事情』と全くイメージの異なる役柄なので、同じ俳優だとわからなかった)の重厚な演技のおかげで、こういう突飛な表現を用いながらも、男尊女卑のシリアスさが鑑賞者に伝わったとも言える。もちろん、パオラ・コルテッレージ監督はコメディ映画を作りたかったわけではなく、半世紀以上前の男尊女卑な状況やそれに立ち向かう女性たちを描きたかったわけであり、現在でも三日に一人の割合で女性が殺害されているという現在のイタリア社会にも根強く残っている男尊女卑的な思考へのアピールが本作の意図であろう。

一方で、本作は母と娘の物語であるにも関わらず、娘のマルセラをあまり上手く使えていない点はちょっと残念だった。母親に対しては正論を言うのに自分の行動にはそれが伴っていないという描き方ではなく、あの大きな出来事を娘が起こすなど言行一致させたほうが、より感動的なラストシーンになったように思う。
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