大恐慌下のアメリカで苦学生のボート部員が1936年のベルリン・オリンピックを目指す感動のスポーツ小説の映画化 byジョージ・クルーニー監督。実話である同名の原作小説は既読です。うん、爽やかな青春スポーツ映画って感じで決して悪くはないけど、まあえっらいこじんまりと小さくまとめてきたな😅もうすぐ全米公開ですが、試写にて鑑賞。
かなり大胆にストーリーの省略や各人物の設定変更が行われることで、原作小説での前半の悪い面がきれいに処理されたかわりに、副作用として特に後半の感動的な要素が半減しています。そこらへんは以下、本を読むのは面倒だけど感動したい方のためにネタバレにならない範囲で記載していきます。この映画化、もう少し欲張って詰め込んでもよかったと思うんだけどなぁ。
そもそもの物語の背景も映画だとすげぇわかりにくいので映画紹介ついでに簡単に説明を。NYのウォールストリートが発端の1929年の世界大恐慌、でも大きな煽りを受けたのはアメリカ西部の人々。多くの未成年が肉体労働を余儀なくされる中、そこに目を付けたのはシアトルにあるワシントン大学のボート部のコーチたち。過酷な労働で鍛えられた若者をスカウトし、東側のエリート校を破ってオリンピックへという青写真を描きます。そうはいっても、エリート校の生徒たちとは違い、全くの初心者の部員たち。果たしてどうなるか...
苦学生の部員たちの中でも家族に文字通り捨てられ特に厳しい生い立ちのジョーが主人公です。原作の第一部は、延々とジョーが如何に苦労人な上にあれもこれもできて、どれほどすごい奴かと語られるのが、年寄りの武勇伝を聞かされているみたいで正直めちゃうざく(笑)、これをバッサリ省略したのはよかったと思う😊
原作第二部は、第一部でのジョーを含む1年生たちの快進撃後に訪れるスランプなんだけど、その要因は気まぐれで優柔不断なコーチのせいでありまして、そのダメダメぶりにイライラ。映画はここもなんとメンバーたちは3年生から競技を始めたという設定で丸々2年分省略して、コーチもすげぇ良いできる人に変更されめでたしめでたし(?)。
原作第三部は、体力はあるけどみんなに合わせて漕ぐのは苦手なジョーの成長。きっかけは同校のボート製作を担当するイギリス人との交流ですごくジーンとくる場面なんだけど、映画では盛り上がりが今一つ。原作ではジョーを嫌う継母の死後に生き別れていた父親や異母兄弟と交流する中で生じる葛藤や彼女の支え、そしてボート部の仲間たちへの信頼、競技へのモチベーションと複雑ながらうま～くリンクしていくのに対し、映画では父親を冷たい悪人として切り離してしまっていて諸々の要素のリンクもなくなり、ジョーのボート競技における成長に説得力がない。
そして最後の原作第四部は1936年のナチス・ドイツ下でのベルリン・オリンピックの功罪。ユダヤ人などに対する人権侵害でボイコットも検討された中で、やはり開催させるべきではなかったという面も描きながら、それでも彼らがオリンピックに出て活躍することにどういう意義があるのかという問いが、単に結果だけではない感動を生みます。
ところが映画ではそういったこのオリンピックの負の側面がほぼ描かれないので、なんか普通にオリンピックをエンジョイしてるだけみたいな。もちろん仲間で力を合わせて競技を頑張ってるから感動は感動なんだけど。特に削らないほうがよかったと思うのは、チームの中にユダヤ人の男の子が一人いて本人が自分がユダヤ人であることを手紙で知るという部分。これは、開催の賛否が割れるオリンピックに、ヒトラーの優生思想を世界に向けて反証するという重要な意味を与える要素なので。
あとはチームワークという面でも、映画でひと際チャーミングで可愛らしく描かれるダンのエピソード*は省略しないでほしかった。どちらも時間的には全然入れられたと思う。ついでに、第一部の主人公ジョー含めた大恐慌後の苦しい人々の生活が省略されたのが実は問題で、オリンピック出場のための資金集めでどれほど人々にとって彼らが希望であったかという部分が薄れてしまっているんよ。
悪口ばっかりになってしまいましたが、原作にはない爽やかさや茶目っ気が映画には盛り込まれよい魅力になってたし、やはり劇伴や映像も伴うと競技の興奮は高まります！というわけで、まあさらっと青春スポーツ映画として気軽に観るのもありだし、また、しっかり感動したいから原作を読むぞ～というのもありだと思います✨ただ、原作は前半が結構うんざりするのでそれはそれで...でも我慢して読むとその中の様々な要素が見事に後半の感動に効いてきます😊
*結末には関わらないという意味ではネタバレではありませんが、終盤のストーリーには触れるのでコメント欄で。
予告編
https://youtu.be/dfEA-udzjjQ
