シシオリシンシ

ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突のシシオリシンシのレビュー・感想・評価

4.5
予算をしっかり使ったミニチュア特撮をスクリーンいっぱいに堪能できる懐かしくも新しい怪獣活劇映画。

アナログ特撮の旗本である日本でさえCGやVFXが次第に主流になりつつある昨今、「ミニチュアを無礼るなよ!」と言わんばかりの破壊のカタルシスを魅力的な怪獣たちと野性的なウルトラマンによって豪華な画作りを成立させた手腕は「お見事!」の一言に尽きる。

特撮ヒーローのTVシリーズの劇場版はファンならば一定の満足感は得られるものの、未就学児を対象としたコンテンツのためやはり低予算ゆえにマンネリ化した画作りに目をつぶらなければならないというジレンマを観るたびに抱えることがしばしばある。
しかし今作は「特撮の美学とは何か?」という原理に立ち返り、ただのファンサービスでは終わらせない「特撮文化」のレベルを一段上げるような野心的な試みとスクリーンの観賞に耐えうるリッチなシーン作りを見事両立してみせた。

シナリオ面もTVシリーズのブレーザーに則り対象年齢より少し上の世代向けにした作りをしており、パターン化した展開を大胆に裏切るようなストーリーラインになっている。
事件の首謀者が12歳の子供・ユウキであり、しかも操られたわけではなく自分の意思で明確に人死にの可能性があるテロを実行したというのはウルトラシリーズでは極めて異例の展開でかなり攻めていた。
ユウキはなまじ年不相応に頭が良く大人びているあまり、表面上やさしく外面の良いが自分のことを本当に省みてくれない父を嫌悪し、それを正当化したいあまり対象の主語を「嘘つきの大人」にまで拡大し、腐った大人の象徴である国会議事堂を破壊の対象に定める。
今作のハイライトである国会議事堂の高精度なミニチュアを使ったクライマックスだが、シナリオで明確な嫌悪の対象としてこのランドマークが使われたのは特撮史では実は初めてのことかもしれない。
ともすればイデオロギーの強い作風に片寄ってしまいそうな危険な設定を、父と子の「家族の絆」という着地点に持ってきたことはエンタメ作品・子供に向けたヒーロー作品としての一線をしっかり守っていたのでこのバランス感覚は正解である。

SKaRDのメンバーも各々キャラを立てつつ、プロフェッショナルとしての職人気質でリアリティのある作戦遂行描写がカッチリと描かれている。そもそもメンバーのポジションやバックボーンがかなり一般ドラマや邦画向けなアンステレオタイプなキャラ造形なのでスクリーンでの各人の活躍がより映えていた。(このへんはウルトラマンというより平成ゴジラや平成ガメラを見ている感覚に近い)

ゲントとブレーザーの関係も少ない描写ながらしっかりツボを押さえたドラマを組み込んでおり、二人の絆やSKaRDとの信頼で繋がった関係もTVシリーズを見てきたファンならば静かに熱くなれることだろう。(個人的にはストーン状態のブレーザー君の自己主張の激しさに笑った。細かい作業は無理と言われてキレるブレーザーかわいい)

本作はTVシリーズ最終回後のアフターストーリーなのだが、いわゆる真の最終回的なイベントは無く、メチャクチャ強い怪獣に対応するSKaRDとウルトラマンの話でしかないので、TVシリーズ本編を見てなくても問題なく楽しめる作品になっているのも一本の映画としてポイントが高い。(かといって縦軸をないがしろにすることはなく分かる人には分かる設定の繋がりがちゃんとあるのも◎)

冒頭はTVシリーズのダイジェストが流れるので主人公や仲間やウルトラマンがどんなキャラかさえ分かっていればほぼ100%楽しめること間違いなし。(ファンなら200%楽しめる!)

デッカイ怪獣やデッカイヒーローっていいな、っていう無邪気な気持ちにリバイバルさせてくれる「特撮」の本質を突いた非常に優れた秀作である。
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