ニャーすけ

テルマ&ルイーズ 4Kのニャーすけのネタバレレビュー・内容・結末

テルマ&ルイーズ 4K(1991年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

頭の悪い学生時代には一体何が面白いのか理解できなかったけど、今観ると完全に昨今のシスターフッド映画の源流だとわかる。リドリー・スコット、ちょっと偉大すぎないか?

普段はカス夫のモラハラに黙って耐え、旅先ではクソ男に強姦されかけるような、女性差別の典型的被害者であったテルマ(ジーナ・デイヴィス)が、警察からの逃避行の過程で社会的束縛から解放され、むしろ活き活きと生命力に満ち溢れてくるのが面白い。身体だけのしょうもないイケメン(まだ新人だった頃のブラピがピッチピチ!)と行きずりのセックスを楽しみ、金が尽きれば拳銃片手に強盗し、挙句の果てには警官を脅迫して窮地を脱するその暴れっぷりは、それまでの人生で抑圧され続けてきたことの反動なのだ。
一方、元々気が強い性格で、初めは頼り甲斐のあるように見えたルイーズ(スーザン・サランドン)は、実は過去に男からなんらかの性加害を受けており、その深いトラウマを未だに克服できていないことが示唆されていく対比が巧い。彼女たちを追うハル(ハーヴェイ・カイテル)は善良な刑事で、何度もルイーズに情状酌量のために投降を求めるが、彼女は彼の良心を理解しながらも毎回その要求を突っぱねる。そして、逃走の効率を度外視してまで故郷のテキサスに入州することを断固拒否する。結局、最後までルイーズが受けた性加害の詳細は語られることはないが、敢えて説明を省くことで彼女を苛む心身の傷の大きさが強調される演出が素晴らしい。現実社会にも、彼女のような女性はきっと沢山いるだろう。

テルマとルイーズに卑猥な野次を飛ばしてきたキモ親父のタンクローリーを、彼女たちが銃弾で蜂の巣にする(それまでのトーンからすると明らかにやりすぎな)ド迫力の爆発炎上シーンに顕著な、痛快さもある作品だとは思う。しかし、本作がアメリカン・ニューシネマの強い影響下にあるのは明白で、それゆえに彼女たちは初めから国家権力に、ひいては男性優位社会に敗北することが決定付けられており、その残酷な不条理性が鑑賞後にじわじわと効いてくる。あの有名なラストカットは悲劇そのものだが、宙を駆けるテルマとルイーズはふたりとも満面の笑みを浮かべている。彼女たちにとって、あの瞬間だけが唯一の救済だったのだ。(アメリカ映画なのだから、携挙などの宗教的イメージがあったとしてもおかしくない)
「たとえどうなろうと、この旅は最高よ」
本作を象徴する名台詞も、男のせいで死にゆく羽目になった女たちの辞世の句だと思うとあまりにもつらい。
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