回想シーンでご飯3杯いける

慌てず騒がずの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

慌てず騒がず(2023年製作の映画)
4.0
配信でひっそりと公開されているamazonオリジナル作品だけど、さすが映画大国のインド。さりげなく深い内容になっている。

タイトルはヒンディー語で「楽しくいこう」みたいな意味。お客さんとのトラブルでいきなり仕事をクビになった青年が、新たな事業で資金繰りに困り、泥棒に入ったのは、妻を亡くしたばかりの独居老人の家だった。その老人もまた、老後の人生で友人が出来ず悩んでいた。

犯罪の加害者と被害者。全く違う立場であるはずの2人の人生が、少しずつ交わり、互いの人生に影響を与えていく。

制度上の問題か、古くからの道徳観がそうさせるのか、日本では加害者と被害者は対照的な存在で、交わる事の無い全く別の人種のように捉えられがちだ。映画でも観客は被害者の側に感情移入して観る場合が殆どである。しかし、本作では必ずしもそうではない。青年が泥棒に至った経緯を丁寧に描き、彼の周囲にも様々な立場の人物を配置する。加害者と被害者は地続きの存在であり、何かがきっかけで立場が入れ替わる事もあり得るのである。

泥棒に入られた老人と、公園で知り合った老女の交流にも、目から鱗の言葉が沢山登場する。生きる事の意味とは? 何を以って幸福なのか? 人口が多く、貧富の差や、宗教の数も多い国だからなのだろうか、僕達日本人には到達し得ないユニークな視点。それが原題の「楽しくいこう」につながるのだろう。

ダンスや歌のシーンで字幕が出ないのが非常に残念だが(最近こういうのが多い)、このままアマプラに埋もれたままになってしまうのはもったいない。多くの人に観てもらいたい作品だ。