映画大好きそーやさん

洗浄の映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

洗浄(2023年製作の映画)
3.5
足りない若者の、満たされた皮肉。
『NN4444』の中で、1番クオリティの高い作品だったと思います。
ホラー映画の定番を地で行く序盤の展開には少々の不安がありましたが、以降の展開、転調にて、ひと味もふた味も変化が加わっていって、良き不条理ホラーになっていきました。
湖のほとりのキャビンにやって来た若者たち、半分が陽キャでワイワイ騒ぐ中、キャビンを貸した?男と、静かめな男(1歩引いた目線で見ている)、そして口数の少ない女の3人は陽キャたちに馴染めず(或いは馴染まず)、彼らが楽しそうに遊ぶ様を眺めていました。
キャビンを貸した?男は、1人でドローンを動かしていた際に操作を誤り、ドローンを湖に落としてしまいます。
湖に沈んでいったドローンを諦められないのか、服を着たまま湖へと入っていきそのまま溺れたところから、物語はあらぬ方向へと進んでいくことになるのです。

※ここから先はネタバレも含まれますので、観た方、もしくはそのことを了承してくれた方のみお読み下さい!

若者たちは飲み会を開き、お酒を沢山飲んでいきます。気が付くと、机が空けられた缶で埋め尽くされていました。
口数少ない女は陽キャの男たちから色々と聞かれ、小さな声で返答していきます。
その様を見ていた静かめな男が、質問攻めに遭っていた女に気遣う素振りを見せます。
そんな中、溺れた男は頭から布を掛けられ寝かされていたのですが、頭、それも口付近が徐々に濡れていき、なんと口から「水」が溢れ始めたことがわかります。
湖の祟りなのか何なのか、原因不明の水の呪いによって、キャビンにやって来ていた若者たちは、口数少ない女以外やられてしまったのでした。
残された女が、水の呪いでおかしくなってしまった仲間たちを冷笑、さも愉快げな表情(見下した表情とも言える)を浮かべながら、物語は幕を閉じます。
勢い余ってあらすじを事細かに書いてしまいました。
本作において特筆すべきポイントは、とにかく水(飲み物も含む)の描写における不快度数の高さが、他の追随を許さない域に到達している点です。
水の呪いが猛威を振るう前の飲み会のシーンにおける、飲み干しては継ぎ足して、また飲み干しては継ぎ足しての連続をダイジェスト的な画面を流したまま、音だけで伝えてくる演出は、若干吐き気を覚えたほどに気持ち悪かったです。それは、恐らくではありますが、口数少ない女の主観を反映したようなアプローチとなっており、一緒になって不快感に溺れることができるという意図だったのだと解釈しました。このシークエンスに没入し過ぎると、後の鑑賞に支障をきたすレベルで凄まじいものでしたね!
また、初めに口から水が出てくる描写も、水道の蛇口をゆっくり捻っていくように少しずつ布の色を濃くしていき、それまでの雰囲気が一変し、何らかの事件が起こってそれを目撃することになるという恐怖心を煽ります。
その後、ゴボゴボと止めどなく水を溢れさせながら、水のある場所へと吸い寄せられていく、もう人間とは思えない、帰れないところにまで行ってしまった仲間たちの姿も、もう恐怖以外の何物でもなく、色彩を欠いたライティング含め素晴らしかったです。
目の色が変わり、言葉も届かず、ただひたすら水を追いかける。それを手懐けてしまう女の異常性。彼女にとっての正常は、私たちにとっての異常かもしれないという、とどのつまり怖さに帰着する普遍的な問いかけまで、全てがバランスよく組み上げられた、上質なホラー作品でした。
あと、お酒を浴びるように飲んでいた彼らが行き着いた末路が、完全な皮肉に落ち着いていたのも、制作陣の性格の悪さ、脚本の出来の良さが光っていて最高でした。
ただ1点文句を言うとすれば、こういった作品では禁句かもしれませんが、水の呪いについて、もう少し言及があっても良かったのかなとも思いました。
説明は排され、観客に委ねるかたちとなっていたため、個人的には少々不親切なようにも感じました。
とはいえ、他に絶対的な悪いポイントも見当たらなかったですし、とても優れた作品であることは間違いないです。
総じて、多少の引っ掛かりはあれど、物語的な王道からの発展、転調が楽しい、満足度の高い不条理ホラーでした!