吉倉光希

トラペジウムの吉倉光希のネタバレレビュー・内容・結末

トラペジウム(2024年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

「東ゆうは、本当に『なにもなかった』のだ。」

コナンかなぁ。見た時に予告やってて、「乃木坂の方が書いているなら間違い無いだろう」と思って、公開したら早めに見にいくと決めていた。まさか初日決めることになるとは思ってなかった。笑

とんでもなく自分勝手な少女の話だった。
とはいえ、いろんな人にどこか心当たりのある身勝手さなのではないかと、同時に思った。

自分の目的は明かさず、「東西南北」から1人ずつ(勝手に)選抜し、アイドルを目指した少女と、巻き込まれてしまった3人の少女と、東さんが踏んづけた人たちの物語。

まあ自分の目的を明かさなかったのも、彼女の思い込みゆえだったのだろうけれど。

結局、「全部のオーディションに落ちた」からこそ、「1人ではなれない」と思って「東西南北計画」を立てたのだろうとは予想ができる。
ただ、つまるところ「虎の威を借る狐」でしかないわけで、その事実はSNSのコメント量の低さに顕著に出る。

つまり、彼女の見る目は確かだったということだ。
同時に、オーディションで彼女を落とした人たちの目も、確かだったということ。

現実は、つまりそういうことだ。

本人が「自分がアイドルになること」「アイドルは素晴らしい職業なんだから、なることさえできればみんなが無条件に幸せになれる」と思い込んでることと、ボランティア関連で片鱗が見え隠れする「使い捨て」主義(決定的なのは工藤くんとのアレ)により、自滅に追い込まれていく、という割と多くの人が経験あるのではなかろうかという感じの話でした。

どんなに頑張っても結果が出ないことは当たり前にある。
その時に、自分よりも頑張ってないように見える(実際はそんなことない)人を「ずるい」と思ったら、それでその人は止まってしまう。嫉妬は原動力になるが、妬みは停滞を招く。あのSNSの投稿、本当にする前に気づけて良かったよね。でも、それが本音だけれど、本音を飲み込まなければならない苦しさだって、もちろんあるけれど。

夢ノートの計画は、きっと他の人にも伝えてなければ意味がなかった。
くるみちゃんは元々最初に門前払いを食らった理由が「面倒なファンが来たと思ったから」だったのに、また「面倒なファン」の前に出されるようなことをした
ただ友達として話したかった美嘉ちゃんを、半分邪魔者のように扱った。
ある意味で、一番ぶれなかったのはお蝶夫人で、彼女が一番強かったのかもしれない。

でも同時に、あの3人がいなければ彼女はアイドルになんてなれなかったのだ。
だからこそアイドルになった後も、少しでも早く会いたくて、走って3人の元に駆け寄る。

結局アイドルだろうがなんだろうが「仕事」ではあるので、熱意がある人もいれば、「気がついたらここにいた」人も当たり前にいる。
で、熱意があるからといって必ずしも高い評価なんて得られるわけでもないし、ゆっくり少しずつやりたかったはずなのに人気が出てしまって自分を見失う人も出てくる。

そのチグハグの中で自分の中で折り合いをつけなければならないのは、職業が違ったとしても、きっと変わらないこと。

誰かの感想で、「アイドルをやっている理由が全員薄っぺらくて、誰も応援する気にならなかった」というのがあった。
おそらく、その感想は正しい。
リアル私たちが見ているのはあくまでもアイドルたちが作り出した虚像でしかない。
アイドルも、職場にいる会社員も、自営業の人も、仮面を張り付けて社会に出て、仕事をしている。
裏さえ知らなければ、彼女たちはキラキラした可愛らしいアイドルで、見たいものだけを見せてくれる。
それまでのプロセスなど、人によるのだ。

偶像、現実、人とのつながり。
きっと夢はあるが何一つ持つことができなかった少女が、本当の意味での友達を持ち、いろんな人との繋がりを持ち、実績を持ち、確かに一つの成果を挙げた、そんな物語だったのだと思う。

高山さんが今まで何を見てきたのかなんて私にはわからないけれど、私は今年、この作品を知ることができて良かったと思ってます。

個人的には古賀さんがプリンじゃなくなってて、「あぁ……美容院ちゃんと行けるほど昇給したんだね……」って嬉しくなりました。
吉倉光希

吉倉光希