ryosuke

悪魔のシスター デジタルリマスター版のryosukeのレビュー・感想・評価

3.7
 バーナード・ハーマンの起用や、マンションの側をうろつくエミールを見つめる際等の『裏窓』的窃視からして、デ・パルマのヒッチコックへの傾倒は明らかだ。とはいえ、ヒッチコックの演出と比べるとどうも洗練されていないのは否めず、派手な色の不味そうなケーキにゆっくりと文字を書く描写と苦しむヒロインのクロスカッティングなどこれ見よがしが過ぎる。
 もっとも、この描写の帰結となる惨劇、早くも訪れてしまう本作最大の見せ場は良かった。ヒロインは顔を見せないまま、その包丁を持った手だけがケーキを持った犠牲者の顔の近くに迫り、邪悪な期待が高まると、素早いカッティングと荒れ狂う影が一瞬で破局をもたらす。ヒッチコックを下品な外連でコーティングしたような代物だが、これは威力があった。
 死にかけの青年が血塗れの手を窓に押し当てるとヌルッとスプリット・スクリーンに移行していくのも面白い。ただのスプリット・スクリーンではなく、二つの画面が相似形を描くように構築されている。例えば、警官らがエレベーターに乗り込むと同時にエミールがドアを開け、その次のカットでどちらも廊下の画面になったり。凝った代物で見応えあり。この映像スタイルは、同時にシャム双生児の意識を反映しているのだろう。肉体を分離されると同時に逆に精神が結合してしまうなんて設定も何やらいいよね。最後まで多重人格か怨霊かをぼかすのも正解。
 とはいえ、序盤の展開がマックスで、グレースが精神病院に辿り着くまでは基本的にはどうしようもない。弛緩し、緊張感のない、どうでもいいカット、シーンがひたすら連なっていく捜査の様子が、序盤である程度高まった期待値をゴリゴリ削っていく。
 エミール役のウィリアム・フィンレイがストレートに気持ち悪いのだが、ただ見た目が気持ち悪いだけでヤバいのはヒロインなのかと思っていたらそれは勘違い。不気味な庭師、電話からばい菌が感染すると信じて厭な叫び声をあげる統合失調症?の患者と、ホラー映画に無駄に変な人が導入されるいつものやつかと思えばそこは精神病院だったという。『ショック集団』じゃないけど精神病院に幽閉されるってのは怖いよな。グレースに催眠をかけるカメラ目線のカットに至り、遂にウィリアム・フィンレイという役者がそのキモさを全面的に露わにする。良い奇人俳優だ。グレースの目から侵入する記録映像の中で、車椅子に乗った双子の背後で、カメラ目線で不気味な笑みを浮かべながら三人連なって妙なダンスを披露する奴なんかも忘れ難い。
 期待していたよりはショボいが最後にもう一発見せ場は披露してくれる。しかしここでは殺しの瞬間の切れ味よりも、グレースが放り込まれたシチュエーションの精神的な厭さが遥かに上回る。「双子」のようにダニエルと同じ服を着せられて隣に横たえられてしまった上に、「結合」しながらの殺人を特等席で見せつけられる最悪具合は見事なものだ。総じて全く傑作ではないし、というか佳作ですらないが歪な魅力はあった。牛と長椅子を変装した探偵(チャールズ・ダーニング)が見守る様をラストカットにしてしまうセンスも実に変で素敵。
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