おざわさん

ザ・キッチンのおざわさんのレビュー・感想・評価

ザ・キッチン(2023年製作の映画)
3.8
【少年は家族を探し、男はまともな住処を求めた】

『ユダ&ブラックメシア』『NOPE』のダニエル・カルーヤの初監督作品で、2023年イギリス制作のNetflix作品。

近未来のロンドンの旧市街「ザ・キッチン」で親の顔も知らず育った男イジーは、このゴミ溜めのような街から抜け出したくて、新市街の葬儀場で働いていたところで昔の知り合いトニの葬儀に出くわします。そこには寂しげな少年ベンジーが悲しみに暮れていて、彼に「母さんの恋人なの?」と聞かれて逃げるように去ります。

結局しばらくベンジーと一緒に暮らしますが、イジーはやっと新市街への引っ越し準備が整ったところで、「お父さんなの?」と近づいてくるベンジーにどう対処していいか分からず、それでも彼との数日の暮らしは楽しくて、家族と暮らす温かさに戸惑うイジー。

やがて旧市街を再開発しようとする警察の取り締まりは厳しくなり、不法占拠している「ザ・キッチン」の住人たちはどんどん追い込まれていきます。

ベンジーはたった1人の肉親だった母親を亡くしたことで居場所もなくなり、母親から聞いていた少ない情報から父親を探し求めてザ・キッチンへ行った。でも家族の愛を知らず育ったイジーは応えられず、まともな住処を求めて、ベンジーを【ゴミ溜め】に残したまま新市街での生活を始めてしまいます。

そんなベンジーは「ザ・キッチン」で出会う多くの人々との生活の中で、知らず知らずオトナへの階段を上っていき、イジーとの関係も次第に変わっていきます。


決してハッピーエンドとは言えないっぽいラストが辛いけど、2人だけじゃなく「ザ・キッチン」の住人たちが探し求めていたものが、実は同じ【居場所】だったんじゃ無いかという気がします。それは立派な家とか綺麗で便利な街ではなく、家族や仲間が安心して共に暮らせる場所。

イスラエル軍による襲撃の続くガザ地区も、彼らにとっての居場所なのでは無いかと思うと、同じく胸が痛みます。

ていうか、これぞ本当の樹木葬だよね🌲