りょう

スリー・キングスのりょうのレビュー・感想・評価

スリー・キングス(1999年製作の映画)
4.2
 ハリウッドで傑作が多かった1999年の作品です。もう20年以上経ちますが、いつ観ても面白いです。デヴィッド・O・ラッセル監督の出世作ですが、現在では過小評価されているのが不思議です。
 主人公たちの4人は、停戦協定に違反してイラク軍を攻撃したり略奪という戦争犯罪を企てたり、およそ共感できる物語ではありません。戦争映画としてのカタルシスもないので、あまり人気がないことは理解できます。ただ、映画としてはハイクオリティで、ほぼ1日のできごとをテンポよく描いた脚本は秀逸です。
 湾岸戦争が開戦した当時は高校生でしたが、あんなリアルタイムの戦争報道を初めて経験しました。毎日のように観ていたテレビニュースの映像を鮮明に憶えています。この作品にも登場しますが、原油にまみれた水鳥たちの映像は衝撃でした。
 この作品では、「結局のところ、この戦争ってなんだったの?」ということをさまざまな場面で風刺していますが、どちらの兵士たちもよくわかっていません。金塊だの高級車だの産油国の裕福な側面の一方で、イラク軍に迫害される国民を救うことのできないアメリカ軍の姿が象徴的です。“クウェートの解放”を掲げつつも、石油産業の利権をめぐる紛争でしかないことは、最初から誰もがわかっていたはずです。
 主人公たちは、戦線を離脱してイラクの部落の人々と行動をともにして、戦時下の国民の境遇に直面します。その視点をとおして戦争被害の実態を描いているようですが、はっきりしたメッセージにはなっていません。全体のトーンがポップすぎるし、ところどころコメディ要素もあるからか、エンタメとして面白い一方で、物語のテーマが曖昧になっているのが残念です。
りょう

りょう