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水深ゼロメートルからのpenのレビュー・感想・評価

水深ゼロメートルから(2024年製作の映画)
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高校演劇から生まれた映画第2弾。
とても好きでした。
着地点や答えではなく問いやそれぞれの考え方を示すまでのやり取りでも、互いの間に生まれるものがあるのを映像として表現していて素晴らしい。

たとえば序盤は登場人物同士があまり会話をしない。
向こうが話題を投げかけても話にのってこないし、はぐらかしてまともに答えを返さない。
それは主人公たち自身の立ち位置にも表れていて、水のないプール場の中で他者に背を向けていたり、距離をとったり、別のこと(掃除や泳ぐふり、メイク等)をしている。それは自分自身のパーソナルスペースを守ろうとしているように見える。
本題を話さない心理戦めいたやり取りがここで行われている風に感じられて、最初から本作を好きになっていた。

彼女たちは同じクラスであるようだし、たまに話すこともあるが、別に同じグループで仲良しという訳では無い。だからそんなに深く親しくは話さないのが描かれている。
そんな人たちが徐々に、少しずつ自分の本音を明らかにしていく。
そうすることで生まれる反発や対立。

そこに答えはない。だが、それぞれが立つ場所、考え方は明確になっていく。それらが一つに纏まることはない。纏まるわけがない。一人ひとり違う人間なのだから。

ではそこに分断が生まれるかというと、そうではない。他者の立場を知ることで、それぞれの苦悩や戦いを知って生まれる絆がある。
彼女たちはこのプールでの掃除が終わったら、また離ればなれになって仲良くしたりすることはないように思う(別のグループだし)。
しかし新たなスタートをきると決めた日としてこの時間のことを忘れないだろうとも思う。
だからこそ最後にすべてを包み込み、かつ啖呵を切るようなラストカットは胸をうつ。

砂混じりのプール場とフェンスで仕切られた野球部が練習するグラウンド、まるで砂漠と国境のように見えた。
あちら側と向こう側。
荒野を彷徨うように右往左往する主人公たち(先生も含めて)から目が離せない。
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