ぶみ

水深ゼロメートルからのぶみのレビュー・感想・評価

水深ゼロメートルから(2024年製作の映画)
3.5
このプールの底から、本当の「私」が始まる。

徳島市立高等学校の生徒で演劇部所属であった中田夢花による高校演劇の同名戯曲を、山下敦弘監督、濱尾咲綺、仲吉玲亜、清田みくり、花岡すみれ、三浦理奈、さとうほなみ等の共演により映像化した青春ドラマ。
高校二年の夏休み、水のない空っぽのプールに様々な理由で集まってきた高校生等の姿を描く。
主人公となる女子高生ココロを濱尾、ミクを仲吉、チヅルを清田、ユイを花岡、隣のグラウンドで練習している野球部のマネージャーを三浦、高校の体育教師をさとうが演じており、登場人物はほぼこの六人。
物語は、特別補習として砂だらけのプール掃除を命じられたココロとミク、水泳部のチヅル、水泳部を引退した先輩ユイの四人が、水のないプールで繰り広げる会話劇として進行。
本作品は、城定秀夫監督『アルプススタンドのはしの方』に続く高校演劇リブート企画第二弾と位置付けられていることから、舞台をアルプススタンドの端っこから水のないプールに移しているものの、会話劇を中心としている点や、環境音として常に部活動の練習音が聞こえてくるといった全体的な雰囲気は、監督は違えど似通ったテイストとなっている。
そして、やはり本作品の最大の肝はその会話であり、最初は正直どうでも良いような内容であったところを、中盤あたりから、それぞれの登場人物が心情を徐々に吐露するようになってからは、多くのテーマが盛り込まれ、体育教師も含め女子高生の今を切り取ったような展開となり、見応え十分。
特に、さとう演じる体育教師が、本音と建前、表の顔と本当の顔を見事に表現していたのは良かったところであり、大人は大人で色々あるよなとツボった次第。
ただ『アルプススタンド〜』が、頭の中で高校野球の試合が浮かんでくるという設定が秀逸であったのに対し、本作品ではそんな脳内補完が必要となるようなことはないうえに、上映時間も長めとなっていたため、特に前半が冗長に感じられてしまったのが正直なところ。
プールが水で満たされ、本来の機能を果たしていれば全く見えてこないが、水深がゼロメートルとなったことで浮かび上がった砂と登場人物の本心が、切なくそして爽やかにリンクしており、観る側の渇いた心も満たされていくとともに、女子高生の娘を持つ父親としては、女子高生が何を考えているのかの一端を垣間見ることができた一作。

超ブーメランやん。

〜Swimming in a Sand Pool〜
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