sazanami

ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版のsazanamiのレビュー・感想・評価

3.7
146分の上映時間に対しわずか37カットという、非常な長回しで構成された映画。カメラが移動するたびに、こちらの体も動かされていくような感じ。
特に登場人物が画面奥に向かって歩いていくシーンなど、自分が映画の中に吸い込まれ、一緒に後についていってしまいそうな錯覚を覚えました。
経験したことのない浮遊感と吸引力に遭遇した、得難い時間だったと思います。

この映画世界に不穏な空気を運んできたのは鯨(目が怖い)と「プリンス」だけど、むしろ警察署長が怖かった。
彼が現れて、映画世界が静から狂騒に切り替わった瞬間が恐ろしかった。静かで不穏な夢が、突如けたたましい悪夢に変わったような気すらしました。

主人公に限らず、人々の歩く姿が印象的。特に暴動の前後は、群衆の歩き方だけで何があったのかわかってしまうよう。
そして主人公は、動き回って様々なことに関わろうとするものの、結局どれほどのことができたのだろう。
病院襲撃後、結局主人公が、自分は何もできなかったと悟ったような表情と、ラストシーンの鯨で、ずっしり気持ちが重くなりました。
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