Pinch

ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版のPinchのレビュー・感想・評価

4.8
ヒットラーのベルリンとスターリンのモスクワとに挟まれた東ヨーロッパ一帯では、1930年代から1940年代にかけて、残虐非道の犠牲となった人々は2500万人に上ると言われる。この歴史的汚点は、ちょっとやそっとの反省や慰めで片付けられるものではない。

このような残忍な暴力行為は、世界のどこででも多かれ少なかれ今まで起きてきたし、これからも起こり得るし、実際に今も起こっている。歴史上繰り返されてきたこととして、人々は巧みな扇動者に乗せられて義憤に駆られ、体制を無秩序に破壊し憎むべき無駄な人間を抹殺する。やりたい放題の挙げ句に、人間の悲惨さの究極にある姿を目にして悔い改め、破壊をやめ、別の世界を創ろうとする。だがその世界もやがて腐敗し、同じことが繰り返される。

ジャパンというクジラも、空疎なプリンスが放つヴェルクマイスター・ハーモニーに導かれ、希少なエステルを排除し幾多ものヤーノシュを生みながら、過去と同じ道を辿るのだろう。外国のことだと高をくくっている場合ではない。自分の心と周りの状況をよく見れば分かるはず。

あえて音楽を最終の拠り所とし、この世界の声なき声をこれほど雄弁に語らせた映画がかつてあっただろうか。
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