慢性眼精疲労でおます

ストップ・メイキング・センス 4Kレストアの慢性眼精疲労でおますのレビュー・感想・評価

3.5
濃淡のグレーか、せいぜいグレージュに近いオリーブまでに絞り込まれた衣装のカラーチャート。適度にオーガナイズされた衣装がパフォーマー達の肌の色の違い(とノーブラ)を際立たせる。そこに淡いグレーのスーツを着たデヴィッドバーンが現れる。ただしそのスーツは規格外に大きく、中にはたっぷりと詰め物をして。

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パンクロックの原動力は怒りだったはずだ。そしてそれはトーキングへッズに関しても例外ではなかっただろう。でも彼らの代表曲の歌詞を立て続けに、それも日本語訳で見せられると、彼らの場合には怒りは怒りでも「持つ者の怒り」のようだった。

それが、従前のニューヨークパンクからはみ出してポストパンクという新しい枠に収められたり、インテリ呼ばわりされた所以の一つなのかも知れない。もちろん音楽自体パンクとは随分違うけど。

きっとそこに悪意はない。おごりは多少あるかもしれないけど、それが純粋な怒りを濁らせるわけでもない。誰だって他人に怒りをぶつけるためには、多少の背伸びをして、距離をはかったり角度を取ったりするだろう。継続してぶつけるためには距離を保たなければいけない。ゼロ距離で怒りをぶつければ自分も怪我をするからだ。

パンクロックは怒りを、上へ向かって投げた。例えば体制的なものに対して、不満をストレートにぶつけたり、反抗する姿勢を見せたりした。その怒りはきっと上まで届かずに、放物線を描いて地面に落ち、それを拾い上げたキッズ達の胸を熱くした。怒りも質量を持ち、重力に支配される。

では、「持つ者の怒り」はどこへ向かったのか。トーキングヘッズが狙ったのは、真横や、むしろ少し下だったんじゃないか?だから彼らがどれだけ背伸びをしても、パンクロックよりもずっと手前で地を転がり、最初は多くの人にまで辿り着かなかったのかも知れない。でも彼らの身近な人には届き、人から人の手を渡り、今まで至る。

馬鹿でかいスーツは能の衣装に着想を得たものという話だ。淡いグレーのものだけを見れば、そうなのかも、と納得しておしまいだったと思う。

でも、真っ白なほうの馬鹿でかスーツは、肥え太った(一部の)白人を揶揄するもののようにも見えた。同じ資本主義のフィールドで、横並びのプレーヤーとして。だからもし、彼らのデビューがあと数年後へズレていたなら、スーツは少し黄色かったのかもしれないと想像した。

いいステージでした。