多湖

デヴィッド・ホームズ 生き残った男の子の多湖のレビュー・感想・評価

5.0
■ 以前から気になっており、ついに鑑賞。私は彼の人を知らず、該当の事件も知らなかった。たまたまSNSで誰かのこのドキュメンタリーの感想を読み、そこから興味を持って…という流れだ。
結果、観ることができてすごく良かったと感じている(それは多分最近、車いすユーザーのある意見がちょうど最近社会的な注目を浴び、そこから様々な声を目にしたことも、理由の一つとして確実にあると思う)。

■ なんというか…その事件と、その後の日々についてを(編集されたドキュメンタリーを通して)知り、泣くことをした。辛い、とか、悲しい、という気持ちになったんだと思う。
※ 蛇足かもしれないけど…。私はこのドキュメンタリーをみて泣く権利はあるのか…? みたいなことを、なんとなく意識する時間もあった。
こうした内容を「全くの他人として、遠くから見て、感動する」とか、そうした体験に着地することに懐疑的でいる。他者の人生を消費したくない、と、思ってはいる。

この手の内容だと「感動させることを意図したような編集」がなされていないかどうか、を個人的には訝ってしまうのだけれど、そうした編集は無かったと思う。
事故に遭った当人であるデヴィッド・ホームズはもちろん、彼をスタントダブルとし、かつ良き友人ともしているダニエル・ラドクリフ、ホームズの存在をきっかけにスタントマンとなった友人、当時のホームズの上司だったスタントコーディネーターのグレッグ・パウエル、そして両親…。
みんながそのときのことを覚えている。そして、今も難しさを抱えながらも、前を向いて関わり合っている(ただ、当時の上司だったパウエルは今も苦しそうだった)。困難を内包しながらも前を向いて生きようとする姿勢。それを全体を通して感じたと思う。

■ ホームズの人間性が、すごく豊かだった。たとえば、自身が(半身不随になるほどの危機的な)怪我を負ったばかりなのに、同室の患者に心を向けるような姿勢が当時あったこと。志のある子どもたちの元に向かい助言をする、スタントに関するポッドキャスト番組を始める、といった未来への投資…他にもたくさんあったと思う。なんだか不思議なほど凄い人だった、気がする…。
誇張でなく、彼の人を私は崇高だと感じた。そして強い。もちろん、強くいなければ生きることさえ難しいような状態ではある…けれど、それでも、そうした姿勢で彼が日々を生きている姿を目にし、敬服するような気持ちすら抱いた。
こうして書いていて気づいたけれど、驚きが強くあったのかもしれない。そして、だから尚さらに、こうしてハンデを負った人も当たり前に排除されず、当たり前に共存している社会がいいな、と思った。社会のあり方がさらにハンデになるのは嫌だな、と素直に思った。

■ このドキュメンタリーのタイトルが『デヴィッド・ホームズ 生き残った男の子』である点がとても印象的だった。
ハリー・ポッターは「生き残った男の子」だ。そして彼のスタントダブルを務めたのは他の誰でもないデヴィッド・ホームズであり、彼がいなければこれまでの映画の形はなかったと言えるだろう。
だからホームズは観客の目には見えなくとも、もう一人のハリー・ポッターなのだ。そしてこのドキュメンタリーの製作総指揮を執ったのはダニエル・ラドクリフである。
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