ナミモト

ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスターのナミモトのレビュー・感想・評価

4.5
試写会で鑑賞しました。

19世紀半ば、スコットランドから舟に乗って、娘とともにニュージーランドの新しい婚約者のもとにきたエイダ。6歳の頃から周囲と口をきくことを自らの意志でやめたエイダにとって、ピアノの音は自分を表現する唯一の手段。

男女の三角関係…ではあるのですが、じつはピアノがメイン・キャストな映画であった印象です。原題(the PIANO)が示す通り、ピアノとエイダは一心同体…ピアノが傷付けばエイダも傷つき(物理的にも)、ピアノが調律されればエイダも…(誰がピアノの調律を手配してくれたのか、という点は結構重要)ラストのシーンもまたピアノとともに…。ラストのピアノは怖かったですね。私がこうなるならあなたも道連れだぁ!みたいな…。ピアノ・ホラー…笑

エイダは、とくに映画のはじまりにおいて、周囲への怒りを内側にもった人物として描かれています。喋らないという意志と実行は、エイダにとっては、何かを強制しようとする周囲への抵抗の手段なんですよね。その怒りは、19世紀半ばの女性がおかれた立場、本人の意にそぐわない婚約をさせられたり…いわゆる家父長性への反発とも捉えられますが、
映画の冒頭とラストにある、エイダの心の声のモノローグは、彼女が声を発する事をやめた(発声を通して自己表現することをやめた)6歳の少女の音声なんですね。ということは、エイダの心は6歳の少女のままとも言えて…体は大人の女性だけれど、きかん坊の少女のままだった女性が、恋愛を通して、成長していくストーリーでもあるなぁ、と思いました。娘と母親というより、姉妹みたいに見えるシーンもいくつかありましたね。
(たしかに『哀れなるものたち』にも近い…!)

あと、連想したのは、指で肌へ触れる、触覚を刺激するシーンが印象的で(あと泥でビショビショ)谷崎潤一郎の『春琴抄』であったり…、指に象徴される音楽の剥奪と言う点では『イニシェリン島の精霊』でしょうか…(島での出来事という点ではシチュエーションが似ていますね)。

あとは、エイダが声を再び出そうと、自分の意思を自分の体から発せられる器官である喉の振えを通して表現できるまでに心が再生するためのストーリー。声の代替品であったピアノと、そのピアノと別れるまでのストーリー。

とても素敵な映画でした。4Kリマスター版で鑑賞できて良かったです。
ナミモト

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