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ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスターのmorettiのレビュー・感想・評価

4.0
主にコロナやハリウッドのストライキの影響で洋画の供給数がすごく減っているのが心配ですけど、代わりに古い映画をデジタルリマスターされた画質や音響でスクリーンで観られるという機会が増えていて、怠け者で映画館主義者のわたしにとっては大変にありがたいことです。
 
それで観てきました「ピアノ・レッスン」。
“不朽の名作”というのにあんまり食指が動かなくって、恥ずかしいことに今の今まで未見だったのですけど、90年代の脂ののりまくったハーヴェイ・カイテルを拝みに行ってきました。
 
封建的な夫に支配される妻が野良ハーヴェイに魅かれちゃって起きる悲劇、と思ってたんですけど、絶妙に違うオハナシで面白かったですね。

時代的にも(たぶん19世紀末)立場的にも(聾唖)弱い立場である女性であるエイダが、かなり意志が強く主体的に動くキャラクターで、それでぐいぐいドラマが動いていく、結構パワフルな作劇でした。

あまり説明らしい説明もなく、どこかフェリーニやタルコフスキー的な超常的な空間からはじまるので、どことなく寓話の風合いもあって、いい意味で「思うてたんとちゃう!」映画。
ホリー・ハンターは貞淑な淑女じゃないし、アンナ・パキンは朗らかなイイ子ではないし、サム・ニールはそれほど横暴でもないし、いわゆるパスティーシュやクリシェのない、真摯にキャラクターや物語に向かった映画で、そこがよかったです。ストイックな映画でしたよ。

ハーヴェイ・カイテルは“わたしの理想のハーヴェイ・カイテル”といった感じで、そこは完全同意なキャラクター描写でさいこう。
また感情的に行き詰まって「んー!んー!」と唸っていました。
マオリ族の描写もフラット(いろんな人がいる)で、そこも今の観点で観てもよかったですよね。若き日のクリフ・カーチスさんも映ってました。
 
でもま、本作の白眉はとにかく、ホリー・ハンター劇場ですよ。
このころは演技派といえばジョディ・フォスターかホリー・ハンターでなんかライバルっぽい感じだった気がしますけど、この映画におけるホリー・ハンターの表現はすさまじいものがありましたね。
処女にも聖母にも鬼神にも狂人にもなる、その感情劇場。
とち狂ったサム・ニールを翻意させるあの眼にわたしはちびりそうになりましたよ。あすこのサム・ニールの気持ちもわからんでもないけど、エイダのあの一瞥でたぶん珍宝もげてると思う。
 
けっして今後も好き好んで観るタイプの映画ではないけど、ジェーン・カンピオン監督のシネアストぶりに改めて驚嘆しました。
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」とも通じるものを本作にたくさん見出せましたよ。
今更ですけど、もっとカンピオン監督の新作が観られたらいいのに、と切に思います。
70代80代のジジイ監督たちが限界突破したりしてるので、60代のカンピオン監督の最高到達点はもっとエッヂーでとんがったやつかもしれないし、そういうの見して…!

あと90年代のエロいカイテルを観たいです…
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