sammy

ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスターのsammyのレビュー・感想・評価

4.0
035/2024

オリジナルは当時劇場で観たと思うが
朧げな印象の記憶しかなく今回4Kリマスター版上映ということで観に行きました。

ジェーン◦カンピオンは今作で女性初のカンヌ◦パルムドール賞を受賞し、その年のオスカー作品賞は辛くも「シンドラーのリスト」に持っていかれたものの今作が後進に与えた影響は計り知れないと思います。

今では別段目新しくもないが
まだジェンダーという言葉すら聞いたことがない30年前において保守的な時代のフェミニズムを扱った当時としてはかなりセンセーショナルな作品として取り上げられていたと記憶しています。
そして30年経った今でもそのテーマのいくつかは色褪せず普遍性を保っているようにも感じられますね。

曇天の下 海辺に打ち捨てられているピアノを演奏する色のないシーンは息を飲むほど美しく そしてそんな女流監督ならではの繊細で哀愁漂う映像もさることながら今作を名作たらしめているのはなんと言ってもマイケル◦ナイマンの胸を締め付けられるように切ないピアノ曲の劇伴ですね。

強い意志を表情で演じるホリー◦ハンターはまさしくその年のオスカー主演女優賞に相応しく素晴らしい。
エンドロールで知りましたがホリーハンター自ら本当にピアノを演奏しているのですね。
幼いアンナ◦パキンも愛くるしさが印象的で助演女優賞も納得。
壁越しに大人の世界を覗き見るシーンはなんとも背徳的でドキドキさせられます。
そしてハーヴェイ◦カイテルの演技は人が人を愛することのどうしようもなさみたいなものをこれまた表情で演技しているのがなんとも味わい深いですね。

なぜエイダ(ホリー◦ハンター)は自らの意思で喋ることをやめたのか。
そもそも冒頭のモノローグはなぜかフローラ(アンナ◦パキン)の声なんですよね。
確かエイダの声が聞けるのはラストのモノローグ一回だけだった気がするが

それまで父親には言われるがままに結婚させられ
スチュワート(サム◦ニール)には自分の分身であるピアノを海辺に放っておかれ
まるで道具のように扱われていた女性=エイダが 自分の意思で愛と自由を手に入れて初めて声を出すことができたという意味なのだと解釈しました。

エイダの父親やフローラの父親の描写、ベインズ(ハーヴェイ◦カイテル)はなぜ白人でありながらマオリ族然とした生活を送っているのか など説明が極端に省かれているのはこの映画が考えるタイプの映画ではなく 言葉のないエイダの表情を読み取るしかないように「感じる」タイプの映画なのだと思います。
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