いの

ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスターのいののレビュー・感想・評価

5.0
気高く荒く、激しい波。しばらくの間、置き去りにされる1台のピアノ。マイケル・ナイマンのあの曲がかかれば、わたしの心はいつだって海の底に静謐に佇むピアノに還る。わたしの記憶はいかれているので、死の匂いで満たされている映画のように記憶していたけれども、これは生きるための映画だった。ちゃんと生きようとする映画だった。エイダだけじゃなくて誰もが。そのことにもあらためて深く心を動かされた。


 ***

・海辺で娘ちゃんが天使のように軽やかに舞い、エイダがピアノとひとつになって音を奏で、ベインズが(表情もなにも映らないけど、でもきっと)その風景や音をそのまま至福の想いであじわう。あの場面の美しさには言葉を失う。


・覗き見る場面の繰り返しの効果。ベインズの棲む小屋の場面だけじゃなかった。最初に到着した海辺で待つ妻子を迎えに出向く夫の場面で既にあった。歩く人々を、木々の奥から横移動で撮るカメラも覗き見ているように感じられる。教会で行われる劇の斧、その後の反復。泥沼にハマる足。そこから一歩を踏み出す足。


・観てから時間が経過したあとで思いだすのは、大きな出来事が起きたあとで、泥んこの地面に座り込んでいくエイダの後ろ姿です。あの崩れるように座っていく姿は、黒いドレス(ドレスと称してよいのかはわからないけど)も含めて本当に美しく、わたしのとっては完璧な映像として脳裏に焼き付きました
いの

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