うめまつ

ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスターのうめまつのレビュー・感想・評価

5.0
十数年ぶりに観たけど毎秒鮮烈に好き過ぎてどうかしてしまいそうになった。歳を重ねてから見ると、エイダが子供に頼りきりな上にトラウマ与え過ぎててかなり不安になったけど、監督も幼少期ほぼ育児放棄されていたらしく、フローラ(アナパキン)には監督自身が、エイダ(ホリーハンター)には監督の母親が少なからず投影されているのだろう。

エイダは感情の赴くままに生きていて、ナルシシズムに溢れ所謂良い母ではないのかもしれないが、女性が今よりずっと抑圧されていたであろうこの時代に、30歳を過ぎても親の決めた相手と結婚させられ、見知らぬ未開の地に売り飛ばされたも同然の状態で、唯一の心の拠り所であるピアノまで奪われたらヒステリックになるのも当然だと思う。声を出さないと決めた、というのもこの歪な世界への抵抗のようなもので、エイダはずっとずっと静かに怒っていたのだろう。こんな世に順応してたまるか、こんな扱いに甘んじてたまるか、こんな人生に屈してたまるか、と。彼女は彼女の世界の孤高の女王として闘っていただけなのだと思う。それが今以上に許されない時代だったのだ。

スチュアート(サムニール)のこと、束縛強めの猟奇的な夫として記憶してたけど全然そんなことはなかったし、今回はスチュアートに同情しながら見れて面白かった。主要人物全員きっちり道を踏み外してはいるけど人間臭くて嫌いになれない。エイダにとってピアノは自身の分身なのだ、という事をベインズ(ハーヴェイカイテル)は理屈ではなくわかっている、という事を観客に言葉を介さずに伝えてくれる。エイダがベインズを選ぶ理由なんてそれだけで十分だった。ベインズが全裸になって自分のシャツでエイダのピアノを磨くシーン、初見時もなかなかの衝撃だったけどもはや神聖な儀式のようだったし、何はともあれハーヴェイカイテルのぽっこりお腹はいつ見ても可愛いのでありました。めでたしめでたし。
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