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Bicoのdm10foreverのレビュー・感想・評価

Bico(2004年製作の映画)
3.7
【アキ・カウリスマキ・ワークス⑧】

シネフィルWOWOWプラスにて鑑賞した「アキ・カウリスマキ短編8作品」のラストの作品。
バラバラで観ることも出来たんだけど、全部(8作品)を一つにまとめたタイトルの方で観ても1時間弱だったので、どうせならまとめて観た方が良いよねってことで観ちゃいましたが、案外レビューに時間がかかってしもたwww
そんなにつらつらと書くことも無いっちゃないんだけど、あるっちゃあるっていうdmの悪い癖(笑)。

・・・ってことで今作。
これはポルトガル北西端のジェスコ国立公園の中にあるビコ村に住む人々を淡々と映した映像であり、今回の短編集・・というか、恐らくカウリスマキ作品の中でも珍しいであろう「ドキュメンタリー」となっていました。

勿論ドキュメンタリーともなれば過剰な演出を行う事は出来ませんし、それこそたった5分でカウリスマキが意図するような映像となるんだろうか・・と興味を持って観ましたが、これが中々味わい深い作品。

もしかしたら・・・っていうか、人間って少なからず「無いものねだり」をするでしょ?
『隣の芝は青く見える』みたいなもんで、何故か自分には無いものがよく見えてしまったりする。
きっと、こういう「何もない辺鄙(へんぴ)な土地」には暮らしたことがない人にとっては「雄大な自然と穏やかな人々。都会の喧騒から離れてこういうところで静かに暮らすのっていいなぁ」なんて思うのかもしれない。

でも、実際に住んでみたらどうなるか?

端的に言えば「ハ~TVもねぇ!ラジオもねぇ!車もそれほど走ってねぇ!」ってなるわけですよ。
それこそ、最初の1~2日はもの珍しさも手伝って面白がるけど「ここで一生暮らすんだよ」って言われたら、憧れだけでは決して埋めきれない現実に直面しますよね。

じゃあ、実際にその地に暮らす人たちはそう感じないのか?
勿論、生活の中で「不便」は感じてはいると思います。
でも、彼らはそこに暮らす。
決して「裕福」とか「洗練」なんて言葉が何一つ当てはまらないような小さな村であっても、彼らはそこに暮らす。
「住めば都」なんてそんな上っ面の慣用句で言い切っちゃうような事ではなく、「そこに住む」ということと表裏一体の「そこを離れない」という生き方なのかもしれない。

どこに住んでいようとも、「無いものねだり」に象徴されるように人間の欲望には際限がない。
でも、求めたところで、その全てが手に入るわけでもないし、仮に手に入れたところで、次の「無いもの」を探し続けるだけのこと。

今回、カウリスマキ短編集8本を通しで観て改めて感じたのは、カウリスマキにとっての「哀愁」や「郷愁」って別にセンチメンタルな意味だけではないんだな・・・っていう感覚。

勿論、「そこに無い物」や「古き良き時代」などに想いを馳せる時のようなウェットな感じもあるんだけど、それと同じくらい、人間って傍で見るよりもずっとずっと物事を考えているし、感じているし、楽しんでいるっていう事を表現しているんじゃないかなって感じたんですね。
そこに彼独特のシュールで軽妙なタッチが加わることで、可笑しみが生まれ、そして人間が愛おしくもなる。

よし!短編観て暖まったところで、そろそろカウリスマキマラソン始めよっかな。
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