ryosuke

バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト デジタルリマスター版のryosukeのレビュー・感想・評価

3.8
 初アベル・フェラーラ。引き締まった傑作からは程遠く、ハーヴェイ・カイテルの凄みに全面的に依存しながら、無軌道な精神がゆらゆらと彷徨う様に曖昧に同伴し続ける映画ではあるのだが、時折噴出するエネルギーの熱量が凄まじく、その価値は認めざるを得ない。
 タイトルからして『ダーティハリー』のような作品かなと思っていたがそれどころではなかった。まずほとんど捜査などしておらず、むしろ犯罪者でしかないので刑事ものですらない。冒頭から信じられない速度で主人公の堕落を提示し続けるのだが、極め付けは男性器をモロ出しにしながら腕をTの字に広げ、「ティンティンティン......」などと赤子のような声を口から漏らしながら揺れているハーヴェイ・カイテルの姿。笑ってしまった。
 中国系の店主と黒人の言い争いを仲裁しているのかと思えばいきなりぶっ放す瞬発力!雨の晩におもむろに車から降りて無免許運転の取り締まりを始めたかと思えば......。最初は悪い冗談だろうとヘラヘラしている二人組をひたすら言葉で圧迫して引き攣らせていく嫌なロングテイク。口淫の真似事をさせながら勝手に発射した後、黙りこくって自車に戻る際の気まずい間に呆れた笑みを浮かべてしまった。警備のチェック名目で被害者の修道女を覗きにいくシーンで、不審そうな顔の看護師を追っ払った後、振り向いて尻の辺りに目線を送らせる演出など、細かいところまで最悪で凄い。何度目かの野球賭博での敗北後、いきなりカーラジオに発砲したと思えばパトランプを取り出して爆走し、泣き始めるシーンのエネルギー!
 果たして主人公に良心や信仰心のかけらが残っているのか、その確かな手がかりは画面上には映らないまま進んでいくのだが、修道女に犯人の名を言えと迫る際に“Mother f……”で止まる辺りに微かな印が垣間見え、その直後主人公はイエスの幻影を見る。その後の告白はあまりに唐突かつ作り物でしかなかったので、どう見ればいいか分からないものではあるが。
 そしてラストシーン、拳銃を突きつけながら最後の試合を眺める緊張感。この主人公であれば、最後にはド派手な破滅が求められるところ、フェラーラはハーヴェイ・カイテルのクローズアップ、その泣きそうな顔と動物的な唸り声こそが最大の威力を持っていると判断したのだな、終わりを告げる劇伴も流れ始めたし、と思っていたら......。ロングショットの中のさりげない凶行と、一拍遅れて異変に気付いた群衆のざわめきは最低の『牯嶺街少年殺人事件』といった趣。いやはや過激な映画だった。
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