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不死身ラヴァーズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

不死身ラヴァーズ(2024年製作の映画)
4.2
 いや~これは松居大吾が確信犯的に意味不明な物語を紡いでいるだけなのかも知れないが、語りの形式から何もかもがただただ新しい。傑作『ちょっと思い出しただけ』が数年間に及ぶ愛の日々を現在から過去へと丁寧に戻って行く試みだとしたら、今作の叙述形式の斬新さは他に類を見ない。幼少期のもう死ぬ間際に黄泉の国から花持って現れた「甲野じゅん」という記名を持った少年への憧憬こそが長谷部りの(見上愛)の存在意義だとすれば、冒頭から甲野じゅんに対して、強い衝動を放ち続ける長谷部りのの純粋な気持ちこそが今作のパンキッシュな推進力であり、同時にミステリアスな部分でもある。冒頭から映画は「甲野じゅん」と出会う長谷部りのの妄想的な出会いを描くのだが、それは心象風景や夢診断のように現れ、恋が成就しようとするタイミングになって「甲野じゅん」のイメージが跡形もなく消失する。原作未読の私からすれば、これはいったい何なのかという狐につままれた想いがする。主人公は統合失調症を患っているのかとも邪推してしまったが、むしろ今作はタイムリープものに質感的には近い感触を持つ。

 中盤以降は、なぜ長谷部りのの眼前にあるイメージが跡形もなく消失するかについて思考実験を繰り返す。せっかく恋したのに、恋した時点で消えてしまう愛しき人への渇望を想いながら、何度も何度も過去の1日を繰り返す彼女の道程にヴィム・ヴェンダースの『Perfect Days』で下北沢Flash Disc Ranchの店主役を務めた松居大吾は、商業映画の枠内で目いっぱい果敢に心底とち狂った冒険しているように見える。交通事故による健忘症そのものが今作のような一度寝たら全てを忘れるという記憶に纏わる設定を取るのかどうかは定かではないが、長谷部りのはコースターに書いた手紙を甲野じゅんが忘れないように何度も何度も送るのである。その涙ぐましい努力と早朝7時半のお迎えが死に囚われた甲野じゅんを束の間救い出すことに成功している。それと共に寄る辺なき長谷部りのに寄り添うようにここでは田中(青木柚)が彼女の病床を照らし出す。部活動あるあるも凄いが、一番心惹かれたのはあのクリーニング店の描写で、同じように亡霊のように退場を繰り返す前田敦子の佇まいも良かった。主人公を演じた見上愛の捨て鉢の疾走感も素晴らしく、GO!GO!7188の『C7』もヒロインの心情というか初期衝動に寄り添う。
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