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戦雲 いくさふむのmasayaのレビュー・感想・評価

戦雲 いくさふむ(2024年製作の映画)
4.1
与那国、宮古、石垣。緊迫する台湾海峡情勢を背景に、自衛隊基地の配備増強が相次ぐ南の島々。有事に最初に犠牲になる島民たちの戸惑いと怒りの反対運動は、行政の不誠実となし崩しの建設強行で透明化されていく。国境の島は今、戦争の予感の暗い雲に覆われている。

海の向こうに攻撃してくるかも知れない他国があることも、家のすぐそばに基地や弾薬庫が作られ、年々増強されていく感覚も本土に住んでいては実感しにくい。国境防備はしっかりしてほしいとは思うけれど、その結果故郷が戦場になりかねない島の住民たちの感情について、あまりにも無関心だったと思う。

登場人物たちは学者や活動家ではなくて、普段は漁業や畜産を営む人たちや島のおじい、おばあであることが日常生活の描写で強調される。それでは僕たちと何が違うのかというと、事態が圧倒的に自分ごとであること。声を上げなければ、自分たちの生活と生命が失われる状況が迫っている。だから声を上げる。

事態が事態だけに、あるいは説明を尽くしていれば、具体的な補償や住民保護策を提示していればある程度の理解は得られたかも知れないのに、石垣島の住民投票条例の廃止が示すように、国や地方行政の対話意識のなさが目立つ。これでは既成事実を作って、住民が諦めるのを待っていると見られても仕方ない。

「疑うブームが過ぎて 楯突くブームが過ぎて 静かになる日が来たら 予定どおりに雪が降る」 
無力感、徒労感に覆われる反対運動の中で、島民の女性は言った。まだ戦争は始まっていない。この島が戦場になるその日まで、戦争にならない為に出来ることをやる。反対の声を上げ続けると。
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