みむさん

フィリップのみむさんのレビュー・感想・評価

フィリップ(2022年製作の映画)
3.5
悪党か、英雄か、被害者か。ナチス占領下のワルシャワで恋人と家族を殺された男の復讐、苦悩と愛とアイデンティティ、戦争の不条理。

復讐の対象が大きすぎて広すぎて、かといって愛する人々を殺した奴を特定できるわけもなく、一体どうやって?と思ったら、ナチス将校の妻や恋人を誘惑しては捨てるという「性交と屈辱」計画を実行するという。まさに屈辱を与える心的ダメージ作戦。

てっきりナチスの本部があるベルリンが舞台かと思ったがフランクフルトなんだな。

フィリップはフランス人労働者と偽りフランクフルトの高級ホテルで働いている。従業員はドイツ国外から来た人が多い。
戦争映画でありながら一見その残酷さから離れた華やかなシーンが多いが、常にフィリップを通して怒り恨みや死の恐怖を感じ取る。

偽のアイデンティティとそのヌルッとした魅力を駆使して「計画」を次々と実行していく一方、外国の男性と関係を持つことがタブーなドイツ人女性が相手なので女性側にも負い目ありバレたらどうなる?のヒヤヒヤはあまり感じない。
よって戦争によって残酷で悲痛なな死別対立別離を強いられた男の苦悩のドラマのようになっていく。

復讐劇といえば確かにそうかもしれないが、単純にそれだけを強調せずに戦争の不条理もしっかりで、俗っぽい話にはなっていない。
監督はアンジェイ・ワイダ監督作「カティンの森」「ワレサ連帯の男」などを手掛けたミハウ・クフィェチンスキと後から知って附に落ちた。