荻昌弘の映画評論

火の接吻の荻昌弘の映画評論のネタバレレビュー・内容・結末

火の接吻(1949年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 「情婦マノン」が、伝説的古典を額縁にしたアプレゲエル風俗のパノラマであったように、これもシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」のパロディ(替え歌)である。
 但しこれは、一応現代の衣装を着せてはいるけれど、古典の現代化というより、むしろ逆に、現代的環境の中の人間達の「古典的誇張」を狙っていると言った方が正しい作品である。若い人々だったら、思わず息をのまずにはいられないような、純で美しい恋愛が、ここには、あまくあまく火と燃え立って展開されるが、その実作者の眼は、案外一本気な恋愛讃美だけにあるのではなく、その純な若人の恋に踊らされているまわりのおとな達の、気狂いじみた「お芝居」の方に、より多くの興味を注いでいるようである
 ピエエル・プラッスウル、ルイ・サルウ、マルセル・ダリオといった、一癖も二癖もありすぎる名優達が、最大限度の個性を発揮して「お芝居」のお芝居を競演している風景は、さながら名舞台を鑑賞しているような娯しさを味わせる。恋し恋されながらも、ついに死によってしか結ばれなかった主人公二人に、甘い涙を注ぐ鑑賞も、勿論いいことだが、ちょっとヒネくれた方なら、きっとそれ以上の面白味を、主人公以外の人々の動きに見出されることだろう。
『新映画 7(12)』