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アトミック・チキンのdm10foreverのレビュー・感想・評価

アトミック・チキン(2023年製作の映画)
3.5
【ギャップ】

MyFFF2024にて。

毛糸で出来ているようなフワフワした見た目の可愛らしいニワトリたちがワチャワチャしながらも平穏に暮らしている農場。
しかし、その近くには原子力発電所が立っていた。
いつものように平和に暮らしていたニワトリたちに忍び寄る「放射能汚染」の恐怖。
そして、遂に溢れ出した放射能の影響で動物たちの体や木の実なんかにも変化が現れ始め、それまでの平和な日常はどんどんと「どす黒い雲」に覆われていく・・・っていうお話。

ここだけ見ると「フランスは原発に対してネガティブなイメージを持っているってことなのかな?」ともなりそうなんですが、意外なことにフランスって世界でも有数の「原発大国」なんですよね。
更にマクロン政権が推し進めた「原発推進政策」に対しても世論は後押ししたっていう経緯もあるくらい。
勿論、ここでいう「国民」は決してフランス国民全員のことではないし、当然原発依存に警鐘をならす人たちだっていると思う。
きっとこの作者もどちらかと聞かれれば「そっち側」じゃいのかな?って思うし。
でも、そういった背景込みで観てみると、この物語の設定もちょっとわかりやすくなるかもしれない、

そもそも、原子力発電所が「のどかな農場」のすぐ近くに建っているっていう事実が、フランス人における「原発という存在」を表しているし、そこには「事故への不安」っていうのが常に付き纏っているんだろうな・・・っていう事もわかる。
つまり、あの距離感こそフランスにおける「原発の現在位置」のようなものなのかもしれない。

映像(アニメーション)自体はコミカルに描かれてはいるものの、そこで起きていること自体は決して笑い事ではない。
そこら辺の「ギャップ」がある意味シュールで、何故か見入ってしまった不思議な作品でした。
『~からの』を連想させる最後のオチはちょっと怖いけどね。

絵のクオリティは結構高くて、こんな感じの絵の長編アニメなかったっけ?って感じで、見た目の完成度は高めです。
お話自体は、もしかしたらこのキャラクターを使った長編のためのプロット版みたいな感じかな・・・っていう雰囲気もあって、この次のパターンなんかも考えているような気もする。
いずれにしても、直接的にニワトリが「原発」を敵にして戦うっていうのは無理があるし、仮にニワトリが原発に勝ったところで、その先は絶望的なシチュエーションしかなくなるし・・・

なので、「この設定」なら短編でフワッと終わるくらいがちょうどいいのかもしれないですね。
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