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オアシスのdm10foreverのレビュー・感想・評価

オアシス(2022年製作の映画)
3.8
【水面】

今年も始まりました「My French Film Festival 2024(略してMyFFF2024)」。
以前鑑賞したときに登録しておいたアドレスにメールでお知らせが届くという新設設計。
今年は短編作品にもどんどん手を出していこうと、先日の国会の所信表明演説でも言ってきたばかりなので(・・・なわけない)、いつもの「ブリリア~」や「ホッピーハッピー~」はちょっとお休みして、この「MyFFF」に短期集中でチャレンジしてみようかなと。

ということで、短編だけで何本出品されてるのかな?と検索したところ13本か・・。
丁度いいくらいでないの?
(ちなみに長編部門は別料金がかかるっぽいので、今回は選外)。

で、あらすじやジャケットの雰囲気で1本目はこれにしました。

これは、ある双子の兄弟をのひと夏を追ったドキュメンタリー作品。
レミ(兄)とラファエル:通称ラフ(弟)はいつも一緒。
でも弟のラフは発達障害があり、徐々に二人の成長とともに、様々な環境の変化も訪れて・・・っていう感じのお話。

この作品では前後の事や家族構成などには全く触れられておらず、あくまでも「二人の現在位置」を切り取ったような映し方をしているので、逆を言えばこちらから「これまでの彼ら」と「これからの彼ら」に想いを寄せながら観るというタイプの作品ともいえる。

この作品ではあえて彼らの両親は写されない。
そうしたことで、この映像が「双子の兄弟」として歩んできた彼らの人生そのものとなり、彼らの間だけに存在する尊い時間や関係性が、より際立って映し出されているような気がした。

きっと、双子で生まれた彼らには「片方の障害」とかそんなものは関係なく「自分の片割れ」としてなくてはならない存在としてずっと一緒に過ごしてきたと思うんですね。
(障害があるんだから優しく接する)とか、そんな概念すら必要ないくらいに自然な関係性として。

でも、やがて彼らも成長し思春期を迎える頃、彼らの目の前には「家族」や「兄弟」だけではなく「他人」「社会」「組織」など、想いや気持ちだけではクリアできないような大きなフィールドが広がり始める。
そして、当然のように彼らにも「家族以外」の交友が生まれ、そこで初めて「健常者」と「障碍者」というカテゴリーがあるという現実を突きつけられる。

兄のレミは「至って普通の活発な少年」で、同じ年の頃の友人たちとスケボーなどをして遊ぶことも増えていくが、ラフは運動神経があまり良くなく、そもそも人との交流が上手に出来ないため、徐々に孤立していく・・・。

でも、レミは決してラフを独りぼっちにはしない。
二人でいる時間を慈しむかのように、誰にも邪魔されない湖で無邪気にカエル捕りをしたり、パドルボートに乗ってはしゃいだり、二人きりでキャンプしたり・・・。

きっとレミは気が付いているんだと思うんですね。
いつかラフと違う道を進まなければならない時が来るっていう現実に。
レミは別に慈悲の心でラフと一緒にいるわけではなく、ただ「大切な弟」と一緒にいるだけ。
でも、自分が生きている社会の中では「レミという一人の男」が求められる。

彼らが住む二つの世界・・・・。

「大人になっても一緒に暮らそうよ。きっと楽しいと思うんだ」
「・・・・おやすみ」

ラフの無邪気な提案に、一瞬言葉に詰まったレミ。
(この提案に、レミは何て答えるんだろう?)
ほんの1~2秒のこの会話のやり取りを聞いて、僕も瞬間的に頭の中で「正解」を探してしまった。
でも、正解なんてどこにもなかった。

彼らが好んで遊ぶ湖は、まさに水面を境に「水上」と「水中」という二面性(二つの世界)のメタファーなんかでもよく用いられるけど、そう考えると、レミもある意味「二つの世界」の間で生きているのかもしれないな・・・と感じました。

二人の関係性がとても尊くて、それを映し出した映像も美しくとても印象的な一本。
設定こそ違えど、どこか先日観て感動した「CLOSE」のような切なさも感じる作品でした。
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