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成功したオタクのzhiyangのレビュー・感想・評価

成功したオタク(2021年製作の映画)
3.0
自分が一番最初に好きになった歌手がKinKi Kidsで、はじめて買ってもらったCDも多分彼らのものだったことを思い出しながら書いている。推し活をするオタクたちをカメラに収めながら「自分の後ろ姿をみるのははじめてだ」と語るラストシーンは少し泣きそうになった。成功したオタクとは「推し活を続けることができて、美しい思い出とすることができる」ことか。まとめとして頷けるからこそ、やるせない気にもなる。その思い出に泥を塗られたらどうする?という映画だろうから。

映画の終盤で語り手であるオ・セヨンの母が、オが好きだった(そして犯罪者となった)アイドルにかつて「感謝している」と語っていたことについてのくだりがある。つまりオが幼いころ、夜勤がある母も寮生活の姉も家を空けがちだった時期にそのアイドルの曲を毎晩聞いていたことが語られる。本当ならそれが「美しい思い出」とできるはずだったのだろう。それが一方的に裏切られるところに「推しが犯罪者になる」ことの難しさがあるのだろうか。
ついでに言えば、「推しが性犯罪者でした」なんて女性が男性アイドルに入れ込むときにしか起こらない問題なようにも思えて、それも(男の私からすると)難しいなと思う。男性が女性アイドルに対して"同様の"「裏切り」を感じることはあるだろうか?

他方で別のことも考える。映画に登場する"推しに裏切られた"ファンの多くはおそらく20代くらいに見えた。要は若者ばかりだ。いわゆる中年のファンはまったくと言っていいほど出てこない(先述のオの母親が唯一の例外では?)。失恋に終わった初恋話に付き合わされているような気分にもなったと言うと怒られるだろうか。この映画で語られている怒りや喪失感がシリアスなのはわかるが、冷めた見方をすればアイドルが本当は何者かわからないなんて当たり前と言えば当たり前じゃないか、という気もする(もちろんだからといって犯罪者、しかも性犯罪なんてのはあんまりだが)。
ファンの口からはアイドルについて「救世主のよう」とか「私たちからお金を貰っているのだから感謝しながら私たちに還元すべき」とか語られていて、入れ込み過ぎでは……とちょっと不安になってしまった。それに、誰かを好きなるのは止められないが、その感情を利用して(ましてや子どもを)強烈につなぎとめるのは産業側の問題じゃないのか。なんでファンが悩まなくちゃいけないんだ。

もっとも、次の推しを見つけて楽しくやっている人の姿も描かれていたので良いのだが。実際、「思い出」とするにはそうして次に進むしかないのではないか。

それにしても、好きだったアイドル三人全員が犯罪者だったファンとかも出てきて、どこの国も芸能界は闇だらけなのか。あと唐突な朴槿恵パートはちょっと面白かった。ヨーグルトマッコリを作ろとして大失敗するカットは謎(でもこれもちょっと面白かった)。

【追記】
あとひとつ思い出した。映画に出てくるファンはさまざまで、帽子を目深に被って顔がわからないような人もいれば、かなりはっきりカメラ目線の人もいる。それ自体ファン心理のようで、ある種の(世間に対する)「あんな男のファンであったことへの恥」のようなものもあれば、一言言ってやらないと気がすまない怒りもある。さまざまに語る彼女らの姿に複雑な心中を見た気もする。そもそも、制作者のオ・セヨン自身がアイドルの有名ファンで認知もされていたということじたい、結局そのアイドルについて語り続けてしまうオタクの哀愁を感じないでもない。推し活が自己表現だという言説は、この映画に限って言えば良くも悪くもそのとおりだなと思う。
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