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成功したオタクのmorettiのレビュー・感想・評価

成功したオタク(2021年製作の映画)
4.0
CDラジカセとともに初めて買ったCDシングルが「冬がはじまるよ」「Eyes to me」「はじまりはいつも雨」。
90年代前半のことですけど、ね、わかる人にはわかってもらえると思う、この思い。
ちなみに並びは捕まった順です…
 
わたしは特定の対象にファナティックになったことはないので“推し”という概念には縁遠いのですけど、なにかを“好き”になって心が強くなったり安らいだり癒されたり、その尊さはよくわかります。
強いて言えば映画が“推し”ですけど、わたしの時間と金を搾取する以外にあいつは悪さしないし、わたしに活力を与えてくれ続けているもんね。
 
その“推し”が犯罪者となり、“推し”ている“わたし”が宙に放り出されちゃってどうしよう…というのが本作の骨子で、主人公である監督自身が自問自答しながら自分と同じような境遇の人たちに「どう思う?」と尋ね歩く私的ドキュメンタリー。
とてもパーソナルな葛藤に立脚するところから始まっているゆえに、誠実で真摯で、そして(これが救いなんですけど)明るい感情が宿っており、とても面白かったですね。
ツンデレという日本の造語(だよね?)がそのまま韓国でも使われてることも知りました。
 
その明るさはたぶん、一度否定した(された)感情をまた自分の中に見出して肯定しているから、なのかなと思いましたし、画面に登場するインタビュイーたちがいろんな葛藤あるだろうにいい顔してるんですよね。
平たく言うと、みんなめんこい。
おそらく20代前半の女性たちばかりというのもあるけど、悲しんでいるし怒っているのに、あまり負のバイブスがなくて、そこがよかったかな。
逆にインタビューするのをやめた、引き続き推し活しているファンのほうが、ひょっとすると負のバイブス出まくりなのかも。
 
その代わりということではないでしょうが、パク・クネ一家を推す人たちに突撃取材したのはいいバランスだと思いましたよ。
あと監督のお母さんへのインタビューが特によかったね。めっちゃ淀みなく喋りまくるし、人情ダダ漏れです。
 
映画製作を志しているとはいえ初めての監督だそうだし、自分の内面と向き合う内容だから、一般的なドキュメンタリーのクオリティには達していないというのはあるけれど、ミクロの視点から現行のすべてのファンダムを照らす肝要はきっちり掴んでいると思う。
 
あと「自殺はぜったいダメ」と語気が強いのは、“死んでお詫び”する文化が存在した日本とはちょっと感覚が違うように思って興味深かったですね。それに韓国では芸能人が追い詰められて…というのがけっこう多いもんね。最近もあったし、ポン・ジュノが声明出してたし。
 
日本でも旧ジャニーズや宝塚などの厚いファンダムを持つ“偶像”における加害があってモヤモヤを抱えている人が多いだろうし、すべての“好き”を抱える人に、少なからず響くドキュメンタリーであると思います。
 
今でも時々切ない気持ちになりながらチャゲアス聞いてます!
(すみませんファナティックになったことないと書きましたがチャゲアスファンクラブに入ってましたぁぁぁ)
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