囚人13号

心の旅路の囚人13号のレビュー・感想・評価

心の旅路(1942年製作の映画)
4.0
そもそも戦争とはこの上なくメロドラマ向きのテーマである。常に死(=別れ)と隣り合わせであるという危機感と共に、それの残響やタイムラグも一種の弊害となりうるわけだが、本作はそれを逆説的に利用している。

すなわち戦争の後遺症で記憶障害となった男が幸せな家庭を築きつつあったある日、交通事故によって突然記憶を取り戻すが別人格で生きていた3年間を忘れてしまう…という話なのだが、この映画では記憶障害の短い期間が本来の実人生よりも重視されている。

つまり本質的には男に取り残され、だがそれは不可抗力であるためどうすることも出来ない女のメロドラマなのであり、かつ時代的にも戦争の非難を避けつつ彼女の苦悩を克明に描いている。
『哀愁』然り女性は男の知らぬ間に苦労し、しかし彼を愛しているが故に残酷な事実を告げることができないのである。男はすれ違いが起ころうとそれにすら気付かない。

しかしチャップリン然り映画が声を手に入れようとも素晴らしい再会シーンの台詞は無言、もしくは互いに名を呼び合うだけで十分なのだ。人はいつになっても純愛物語に惹かれ、それに感動できるのだという好例。傑作。
囚人13号

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