おたけさん

めまいのおたけさんのレビュー・感想・評価

めまい(1958年製作の映画)
4.0
ある意味サイコよりサイコな、自分的ヒッチコックの中では傑作です。

デビットフィンチャー、スコセッシ、その他クリエイターから大絶賛のこの、めまい。
この作品の大まかなテーマは美しい偏愛劇。
まさにヒッチコックらしい白昼夢感、現実なのか夢なのか、ストーリーもプロットも曖昧かつロジックも唐突。
なので、見る人によっては現代映画と比べると全てにおいて新鮮ではないでしょう。
しかし相変わらず丁寧なカット割り、映像美、人物の書き方を映像詩としての表現は芸術そのもので、まるで一枚の怪奇な宗教絵画の物語をフィルムで翻訳したような映画です。(60年前の映画だぞ!)

混乱気味なストーリー展開もハッとするようなポイントを後半に詰め込むことで大衆性を持たせるあたりもヒッチコックらしい計らいです。

あと、サスペンス恋愛映画と見せかけてネクロフィリア(死体性愛)映画とも取れます。
主人公は死んだはずの危険な恋人を忘れられず生きた女性にその過去を演じさせるという猟奇的な性的サディズム嗜好を持っていき、ラストの展開でやっとめまい(自我の解放)から覚めるという内容です。

が、しかーし!

以下ネタバレ。(超個人的見解)

これはあくまでも物語の終わり方だけなのです。
この作品はヒッチコックの中でも興行収益が低かったんですね。それは上記のイマイチぱっとしない流れのせいでしょう。
実はここからがキモで、エンディングになるにつれ、、、

「見てる側がめまい」をここで起こします!

話がおかしいのです。
主人公は病んでしまったとされる上司の奥さんを追いかけてるうちに惚れてしまいましたよね。
しかしそれは影武者である女性だったわけですよね。
で、死んだのは本当の奥さんだったので、好きになった女性(影武者のほう)には変わりないのでここで話は恋愛として結果オーライのはずなんです。
しかしこの主人公は執拗に女性を責め立てます。挙句の果てには自分の高所恐怖症を治す事に執着を見せるようになります。
誰を愛し、誰を失ってるのか、虚像の亡霊を愛している事だけしか信じられなく、よく分からないまま混乱していきます。
それを表すのが「もう彼女は戻ってこないんだ」と、それを当人に言ってるのです。
つまり、人ではなく女性像そのものと、思い出に倒錯してしまったからです。
これは実に深いテーマで、過去のトラウマから自我の崩壊が伺えます。

つまり、全部を把握したところで心の闇から解放されるどころか、克服できたのは高所恐怖症だけであり、またさらに深いめまいと共に空虚感に包まれエンドとなるわけです。

そして最後に女が飛び降りるのは、自己の罪悪感から、修道女の影が、亡霊となり奥様が復讐しに来たのだと思い錯乱した結果でしょう。

そして何事もなかったかの用に修道女は鐘を鳴らすのです。すごく不気味な演出ですね。

このように明らかなストーリーがないものを見るものに考えさせ、めまいを起こさせたヒッチコック。どう考えても芸術だ。
おたけさん

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