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マンク 破戒僧のtakのレビュー・感想・評価

マンク 破戒僧(2011年製作の映画)
3.1
修道院の門前に置き去りにされた赤ちゃん。アンブロシオと名付けられたその子は修道院で育てられて成長し、誰よりも心に響く説教をする修道士となり信頼を集めていた。その修道院に顔を隠した少年バレリオがやって来る。頭痛に悩むアンブロシオを不思議な力で治した後、バレリオはその正体をアンブロシオに明かす。それはアンブロシオが戒めを破る始まりとなっていく。

18世紀に書かれた原作小説は道を踏み外していく修道士を描き、背徳的だと批判を浴びた問題作。主人公を育てた神父が「悪魔はどこからか迫って来る」と言っていた予言が、思わぬ形で現れる。

確かに地味な印象の映画。英米の大手が製作していたら、悪魔的な存在のイメージをもっとビジュアルで万人にわかるように示すのかもしれない。「お前も欲の罪を犯した」と現れる幽霊とネガポジ反転したイメージが主人公の表情と二重映しになるくらいしか特殊な場面もない。だけどバレリオの仮面の不気味さ、修道院の建物に施された彫刻、アンブロシオの物語と敬虔な信者である女性との物語がどう関係するのか、バレリオが彼に授ける秘策に気づくと引き込まれていく。その末路の悲劇と神でない者に救いを求めるラストがズシーンと心に響く。

過剰な映像演出がないだけ身近に悪魔が潜んでいる、俗っぽく言うなら"魔がさす"様子が生々しく感じられるのだ。その功績は照明だと思う。夜の場面でも何が起きているのかきちんと伝わるのがいい。自然光にこだわる監督なら訳がわからなかったかも。アンブロシオの説教に聴き入る群衆の中で一人の女性だけが輝いて見える様子や、バレリオが授けた魔力を持つ枝花がどれだけ特別なものかが、光線の加減だけで示される。そして、逆光で顔が見えない女性の姿が示されるラストシーン。地味だけど上手い。

もともと無表情なヴァンサン・カッセルが、他の映画よりもさらに思い詰めた表情に見えてしまうのもやはり巧さなんだろう。僕がこの映画をセレクトしたのは、お気に入りのフランス女優デボラ・フランソワが見たかったから。ここでは詳しくは触れないけど、あの瞳で迫られたら絶対に心揺れます。
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