耶馬英彦

わたしのかあさん 天使の詩の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

3.5
 山田火砂子監督の作品を鑑賞するのは、本作品で2作目だ。監督は多分、クリスチャンだと思う。前作「われ弱ければ 矢嶋楫子伝」は、キリスト教色が強すぎて辟易したが、本作品はそれほど強くない。原作は読んでいないが、教会のシーンは不自然だったので、強引に挿入したのかもしれない。明らかに不要なシーンだった。本作品にキリスト教の世界観は必要ない。

 乙武洋匡のレストラン事件、イオンシネマの事件といったトラブルがあって、SNSでは賛否両論が飛び交った。障害者対応は難しい。ともすれば差別や人格否定と受け止められかねない。しかしそれは、障害者と健常者を区別するからだ。差別は、区別やカテゴライズ、レッテル貼りからはじまる。単に困っている人を助けると考えれば、個別の事案になる。
 誰もが自分の権利ばかりを主張すると、弱い人が不利を被る。だから弱い人が不利を受けないように気を使う必要があるし、困っている人がいたら、なるべく助けるべきだとは思う。しかし両方とも、勇気がいる行動だし、時間と労力と、場合によっては金銭も要する。

 障害者の支援は、本来は個人の自発的な行動に期待するのではなく、共同体が税金を使って行なうべきだと思う。税金は困っている人のために使われるのが正しい。本作品の中でも同じことが台詞として言われている。しかし行政は、困っている人を助けるつもりはないらしい。

 2024年4月1日から、障害者差別解消法が施行される。不当な差別的扱いを禁じるとともに、合理的配慮を義務化する法律だ。菅義偉が首相時代に「自助、共助、公助」と言い放ち、国は困っている人を助けない、自分、または自分たちでなんとかしろと見放した。簡単に言えば、それを法制化したのがこの法律である。
 2005年の障害者自立支援法も酷かった。美辞麗句で飾り立ててはいるが、中身をよく読むと、障害者支援の予算を減らして、障害者が自分で稼がないと生きていけないようにする法律だ。障害者を見捨てる法律を「自立支援法」とはよく言ったものである。
 作品中で繰り返し指摘されているように、いつ誰が障害者にならないとも限らない。人ごとではないのだ。そこに税金を使わないで、どこに使うというのだろう。障害者を区別して否定する政府や官僚たちは、自覚したほうがいい。

 前作と同じように、棒読みの登場人物が何人も登場するが、それほど気にならない。主役の寺島しのぶの演技は圧倒的で、作品のイメージを全部持っていってしまった感じだ。船越英一郎や高島礼子などの脇役陣は、安定感のある演技で、作品を地につけている。
 常盤貴子の子供時代を演じた落井実結子が素晴しい。子供ながらの葛藤は、母の溢れんばかりの愛情できれいに流れていき、晴れ晴れとして、前向きな気持が蘇る。人生は否定よりも肯定が大切なのだ。
耶馬英彦

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