Yoshishun

ティファニーで朝食を 4KのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

ティファニーで朝食を 4K(1961年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

“アバンタイトルとのギャップ”

午前十時の映画祭14にて。
『ローマの休日』で完全にノックアウトされた身として、オードリー・ヘプバーン出演作で特に有名な本作を見逃すわけにはいかない。敢えて本イベント上映のために配信・レンタルをスルーし、劇場にて初鑑賞してみた。

開幕早々、高級ブランドであるティファニーのウィンドウを眺めながら、優雅にクロワッサンを頬張るオードリー・ヘプバーン、バックに流れる名曲「ムーン・リバー」と併せて映画史に残るアバンタイトルに酔いしれる。早朝というのもあるが、ヘプバーン演じるホリーは何故店内に入らないのか、そこに本作のテーマである自由奔放に生きる素晴らしさとその弊害について内包しているように思う。しかし内容を全く知らなかった自分は絶句した。美しきヘプバーンを堪能した直後に待ち受けているのは、斎藤工もびっくりな不倫劇や自由と自分勝手を履き違えた人々の生々し過ぎるドラマだったのだ。

裕福な人生を手に入れるため、富豪との結婚を夢見るホリー。既婚女性と不倫しややスランプ気味な売れない小説家ポール。ひょんなことから知り合った2人のコミカルな恋愛劇を想起させるが、実態は違う。何とホリーは夫と子ども、そして親しき兄を差し置いてニューヨークに単身家出していたのである。夫の反応を見るにロクに話し合いをせずに1人飛び出してきたのだろう。結局連れ戻せずに何とも言えない表情で見送られる夫があまりに不憫すぎる。また、ポールもポールで、ホリーへの想いを隠しながら不倫相手と関わり、胸の内を明かせないでいる。タイトルのような豪華絢爛な装いで洒落た内容ではなく、とにかく観ていて中々エグい展開ばかりである。

おまけにオードリー・ヘプバーンの他の出演作もそうだが、男性への隷属意識が芽生えるクライマックスも生々しい。まさにこの頃のハリウッド製ラブコメに蔓延っていたこの描写は、さすがのフェミニストではない自分でさえも不気味さを覚えた。今なら世のフェミニストは口を揃えて罵倒しそうなシーンである。

元々カポーティによる原作を設定改変し、またかなり端折られた部分もあるらしく、ホリーの初婚時のエピソードや、ポールの小説家としての才能を裏付けるエピソードに乏しい。奇天烈で意味不明なタイミングで怒鳴り散らすアジア人の男性の登場も突拍子もなく、ホリーの自由な生き方を阻害する存在としての機能しか果たせていない。白人が思い描く馬鹿で小柄なアジア人という典型的な描き方なので、多くのアジア圏の人々から批判されるのも無理はない。

それでも一貫して自由奔放さを失わないホリーにある種の人間味溢れる魅力は伝わってきたし、その後Aチームのリーダーを務めることになるジョージ・ペパードの落ち着きある演技力に、まさに二枚目俳優時代の色気を感じさせる。どんなにドロドロな恋愛劇だろうが、この2人無くして本作は誕生し得なかっただろう。

全く予習なしで挑んだために思っていた内容、特に優雅なアバンタイトルとのギャップに驚いたが、40代手前のヘプバーンの変わらぬチャーミングさに惚れ惚れすること請け合いな、昔ながらのラブコメであった。
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