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ピクニック at ハンギング・ロック 4Kレストア版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 もはや知られざる過去の佳作・名作に、新世代の若手女性たちが今の世界線で通用する字幕を付け、上映するプロジェクトとしてグッチーズ・フリースクールさんが提唱するかつての名画の掘り起こしには一定数のファンが付いており、地味ではあるが賞賛に値する流れだと思う。そこにあくまで配信専門だが、力のある作品はあえて劇場で公開したいというJAIHOさんの提供が付き、Wネームとなったこのプロジェクトの存在感はいよいよ増すばかりだ。私は昨年の『ハズバンズ』の幻だった長尺版の公開に十分に感謝しており、今回の下高井戸セレクションはほとんどVHSやDVDで所有しているので行かなかったのだが、アベル・フェラーラの傑作『天使の復讐』や、キャスリン・ビグローがモンティ・モンゴメリーと共同で監督した『ラブレス』よりも、この『ピクニック at ハンギング・ロック 4Kレストア版』をメインに持って来たことに、例え2024年の世界線だとしても、グッチーズ・フリースクールさん及びJAIHOさんは大変に攻めたなぁという感慨しか出て来ない。

 今月終わりに公開されるクレール・ドゥニの『美しき仕事 4Kリストア版』は間違いない傑作で、トキシック・マスキュリニティの呪縛から解かれた主人公の人生讃歌で真に傑作なのだが、その前に文化村ル・シネマで上映される今作は幾分微妙な感触の映画である。既に死語であるレンタルビデオ全盛時代を知る者にとっては、今作は「あぁ、そんな映画あったなぁ」と言う印象くらいの映画で、残念ながらそれこそ『刑事ジョン・ブック』や『マッドマックス』の余熱の中で炙り出されたオーストラリア映画という印象しかない。そもそも監督であるピーター・ウィアーとの相性も悪く、今作の疑似リアリズムのような展開に違和感が残った鑑賞経験を経て、2024年に今作を再見してみたがなるほど、今観ると当時気付かなかった細部が自己主張しているように見える。あえて周辺の淵の淵から外様から見つめた感想とすれば、『白い肌の異常な夜』をリメイクしたソフィア・コッポラの思春期の原体験には今作があり、彼女の処女作『ヴァージン・スーサイズ』には今作の影響が色濃く映る。然しながら今作の感触としてはひたすら変な映画で、どうしてこれを映画化したのか途方に暮れてしまうのも事実である。親友に話を聞いたらこんな名前の高校は無かったようで、今作は実話ベースでも何でもないということ。そしてピーター・ウィアーお得意の20世紀前半の女性たちへの抑圧が描かれている作品だということである。突然出て行く少女は山に登ったことで天啓を得て、この寄宿舎に耐え切れず人知れず去り、校長先生もお気に入りの生徒を失ったばかりか、自分を雁字搦めにした規範という名の抑圧に耐え切れず、暗澹たる姿を晒す。ヘビに気を付けろというヘビそのものが象るものは性的なメタファーだと思う。肉体的な繋がりを経ず、少女たちは通過儀礼を終え、そして神話になった。
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