ボブおじさん

シャイニングのボブおじさんのレビュー・感想・評価

シャイニング(1980年製作の映画)
4.0
モダン・ホラーの帝王スティーヴン・キングは、数多く映画化された自作の中でこの映画が一番嫌いだと公言しているが、作品を見ればその意味が理解できる。

これはキングの〝個人的な経験を反映させた作品の映画化〟ではなく、スタンリー・キューブリック独自の世界観の中に描かれる〝より美しく、より怖く〟を追求した映像作品だからだ。

従ってキングが伝えたかった事よりもキューブリック自身が描きたかった映像が優先されている。このことに関しては、キングのみならず原作ファンも不満かもしれないが、個人的には原作を忠実に映像化することが必ずしも正解とは思っていないので気にはならない。(原作は既読)

例えば同じくキング原作の小説〝ザ・ボディ(死体)〟を映画化したロブ・ライナー監督の「スタンド・バイ・ミー」などは原作にあったホラー的要素を全てバッサリと切り捨てて、見事な青春映画に仕上げている。要は面白ければいいのである😊

その意味では、この映画は面白かった。確かに原作の意図との違いはあるが、タイプライターや三輪車といった何でもない小道具が、その見せ方によって恐怖の世界へと誘う演出などは映画ならではのものであり、斬新で完璧に計算されたカメラアングルや狂気に満ちたショッキングな色使いなどは、いかにもキューブリックの作品と思わせる。

そもそもキューブリックが監督をすると決まった時点で、この映画がビジュアルに特化した演出になることはある程度予想できる。

キング自身を投影したと思われる作家志望のジャックが、小説では家族の生活のためにホテルに籠り執筆しているのに対して映画では、その描写が抜け落ちジャックの狂気のみが前面に出て、完全に被害者と加害者のような描き方をされている。

これにより父と息子の関係性もまるで原作とは異なったものになっているので、原作者が不満を持つことは当然かもしれない。

だが、キューブリックが目指したのはそこでは無かったということだ。そして自分は、小説とは違うこの映画ならではの世界観を存分に楽しむことができた。



〈余談ですが〉
原作者と映画の制作者の見解の違いは、どこの世界にもあるのだろう。

小説も映画も当事者の気持ちは本人にしかわからないと思うので、部外者の自分としては今後も純粋に作品にのみ向き合っていきたい。