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シャイニングの海のレビュー・感想・評価

シャイニング(1980年製作の映画)
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人間を怪物にする場所というのは確かに存在するし、人間を狂わせてしまうには言葉一つで十分だとも思う。それは決して閉塞感や緊張感だけが連れているものじゃない。この世には得体の知れない現象の方がずっと多いのだ、ただ気づかずに通り過ぎているか、あるいは、あなたが何もかもを解明し尽くした気になっているだけで。(狂気を否定する議論が、さらさらと音を立てて積もってゆく/一層また一層と)逃げ惑うための広い空間、斧で破るための木製ドア、血で汚すための上等な家具、痣を残すための白い膚。完璧な美しさを壊しはせずに塗りたくるだけの不快がたまらなく気持ちいい。夢と現実が少しずつ合わさり、ゆっくりと動き出すこの不自然と自然の調和は映像以外では表現のしようがないほど完璧で、一箇所たりとも天然素材を残さないこの世界観の虜になるまでに時間はかからない。(この骨の隆起のすぐ下を、いったいどんな怪物が跳梁しているのだろう?)ジャックが忙しなく動かしている舌とかウェンディが泣くときに鼻が変な音立てるのとか本当癖になる。完全な好奇心のみから、ここで人間の恐怖を小馬鹿にしていくスタイルの恐怖体験を覗き見していたくなる。ホラーとは嫌うひとにとってはストレスだが、好むひとにとってはストレス発散になる、というのは本当にそのとおりだと思う。さてキング版のほうに散々キングの肩を持つようなことばかり書いてしまったあとだと言いづらいんだけれどわたしは本当に本作を心から愛しているし、そもそも原作で217号室だったところを237号室にしている時点でこれは並行世界だと受け取ることができ、グレイディのファーストネームの相違(これは曖昧)もかなり意味深であり、ホテルの繰り返している記憶の融合だと考えることもできるだろう。しかしそれにしてもジャックの扱いの酷さといったら…この原作レイプの生んだ傑作(愛を込めてこの言い方で)も含めて、わたしは『シャイニング』が好きですし、冬に観たいホラー映画の堂々の第1位なのです。
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