TAK44マグナム

第三次世界大戦 四十一時間の恐怖のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

3.6
今なお続く危機。


ネットでのトレンドワードに「第三次世界大戦」があがる等、相変わらずキナ臭い世界情勢。
新しい冷戦の時代を迎えている昨今ですが、まるで世界は戦争を求めているかのようです。
リードするべき権力者層の多くが第二次世界大戦を知らない世代になってきているのも大きな要因ではないでしょうか。
痛みを知らなければ、目の前の利益のために世界を滅ぼしかねない戦争だって起こすかもしれません。
人はそれほど愚かではないと信じたいですが、残念ながら人は愚かなのです。
それが分かっているからこそ、人々から核戦争の恐怖が消えることはありません。
まだ戦争や原爆の恐怖が現在よりずっと色濃く記憶に残っていた時代なら尚更だったでしょう。
唯一の被爆国である日本でも当然、核戦争への警鐘をうたった映画が作られました。

東宝の「世界大戦争」は直球タイトルの傑作で、円谷特撮による東京をはじめとする世界の主要都市の融解、崩壊、破壊が強烈で、切ないまでに遅すぎる人間讃歌が哀しい作品でした。
対して、第二東映が製作した本作は、予算の関係からか特撮シーンは控えめなものの、迫りくる戦争の危機や群衆パニックをリアルに描いたドラマに魅入る出来映え。
主演は先日惜しくも亡くなわれた梅宮辰夫で、新聞記者の主人公役。
その恋人役に三田佳子。
この2人の悲劇的な結末を軸に、流しのギター弾き夫婦、典型的や中流家庭や上流家庭の家族たちを交えて、朝鮮半島を発端とする世界戦争の不穏な影が現実味を帯びてくる様子を追って描いています。
事の発端が朝鮮半島なのは「世界大戦争」と同様ですが、これは朝鮮戦争があった当時の世相からでしょう。
今なら中東、もしくは中国が進出を続ける極東になるでしょうね。
極東の場合、やはり朝鮮半島がクローズアップされる可能性も高い。
因みに本作の公開から2年ほどで、歴史上、世界が最も核戦争に近づいたとされるキューバ危機が起きています。
また、アメリカの基地があるから攻撃されると、何度もセリフで強調されるのも時代を感じさせる点。
製作時、安保闘争がまさにリアルタイムだったのが影響を与えているのは間違いないと思います。


序盤、高校生が小さな船でアフリカに逃げようとします。
何から逃げるのか?
それは核戦争の恐怖からです。
アフリカが最も被害が少ないと目されているからと、衝動的に日本を脱出しようとする3人の高校生。
結果的に嵐に巻き込まれ遭難、救出されたニュースで「核戦争の恐怖から逃げようとした」という動機が世間を賑わします。
これは高校生たちのヒステリーでしかありませんが、ニュースになることで次第に日本のそこかしこで集団的ヒステリーが発生してゆく発火剤となるわけですね。
「いつ戦争になって、核ミサイルが飛んできてもおかしくない」という恐怖を共有し、それがいつしか世間を蝕み、あっという間に蔓延してゆきます。

やがて、ラジオから流れてくるニュースが徐々に険しくなってきます。
核を積んだ輸送機が朝鮮で墜落し、
その事件を巡ってアメリカとソ連が対立、一挙に戦争が現実味を帯びてきてしまいます。
良識派の人々が国連を通じて両国に戦争回避を働きかけますが、うまくいきません。
世界中が固唾を飲んで事態を見守る中、銀行には預金をおろそうとする群衆が押しかけ、次第に東京を離れようとする者が増えてきます。
実際は水爆攻撃を受けた場合、日本のどこにいようが助かる術はありません。
例え直撃を避けたとしても、放射能汚染は確実にすべての人々を蝕んだゆくからです。

何度かの小競り合いの末、ついに話し合いも決裂。
超大国同士のミサイルの撃ち合いが始まってしまいます。
ラジオから聞こえてきたのはソ連から日本へ向けた最後のメッセージ。
「日本という美しい国を破壊するのは忍びないが、アメリカの基地があり、そこから攻撃機が飛ぶかぎりは報復攻撃せざるおえない。
さようなら日本の人々・・・」

諦めから逃げる足を止める者。
無駄だと知りつつも逃げ続ける者。
そして愛する人が残っている東京へ踵を返す者。
何百万もの人々が噴き上がるキノコ雲を目撃します。
東京タワーも、サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジも吹き飛びます。
完全に破壊された東京で、必死に恋人の名を呼ぶ主人公。
彼は天に向かって叫びます。
「誰が戦争を起こしたんだ!」


低予算なので、想像するより核戦争勃発の場面はシンプルですし淡白。
ドラマパートで引っ張りますが、なにぶん古い映画ですので演出自体が古臭く思えるのは仕方ないですね。
男社会なので主人公をはじめ、男たちがやけに尊大な言動や態度なのも現在からすると嫌悪感を感じるかもしれません。
しかし、モブシーンは人海戦術ですごい。
東京を脱出しようとパニックになる場面は全体的な芝居ができているのでリアルに見えます。
「ゴジラ(1954)」の疎開シーンもそうでしたが、戦争体験を持つ世代がまだ殆どだった当時だからこそ醸し出せた空気感なのでしょう。
平成ゴジラシリーズになると逃げ惑うエキストラさんの一部が笑ってますからね。
平和ボケ、日本です。


20億もの人命が失われ、はたして人類は再建できるのかと投げかけて、物語は幕を閉じます。
もしいま、本当に核戦争が起きたらどうなってしまうのか。
核のスイッチを託された者が戦争の悲劇を知らない。
頭では理解しているつもりでも肌感覚では分かっていない。
だから自己の利益のためには戦争を始めかねない。
我々はその現実と運命を共にしているのだと肝に銘じながら、「戦争はいらない」という強い想いを持って生きてゆくしかないのです。
そんな想いを強くする作品でした。


アマゾンプライムビデオ(JUNKFILMby TOEI)にて