湯っ子

蜘蛛女のキスの湯っ子のレビュー・感想・評価

蜘蛛女のキス(1985年製作の映画)
5.0
これも10代の頃、テレビ放映を録画して擦り切れるくらい観た映画を再鑑賞。
オープニングから美しいテーマ曲が流れてきただけで、胸がいっぱいになった。
投獄された政治犯のバレンティンと、未成年買春のゲイ、モリーナ。舞台は殺風景なのに、モリーナの存在と彼が語る映画の話の回想シーンで、画面は華やかだ。

ウィリアム・ハートはこの作品で主演男優賞受賞している。女性の心を持つモリーナ。身のこなしが過度に女性らしく、いかにもと言った感じ。
ラウル・ジュリアは、彼らのセックスとは逆に、受け手としての存在感が良い。
10代の頃は彼の良さがわからなかったのだが、今観るとすごくセクシーで、モリーナと一緒になってときめいてしまった。
理想を掲げ闘う男が、弱さや優しさをさらけ出してくれたら、女は参ってしまうよね〜。

2人が同房で時にはケンカもしたり、お互いをいたわりあったりしながら親密になる。
バレンティンは、モリーナが所長にスパイを依頼されていることに、うすうす気付いているのだろう。その緊張感は常に2人の間にはありつつ、お互いそこには触れないようにしている。
バレンティンはまっすぐストレートの男なんだけど、モリーナの愛の告白を受けて、一度だけ結ばれる。この時のモリーナは私にはすっかり女に見えたし、きっとバレンティンにもそう見えたんじゃないだろうか。
この夜、確かに2人は男と女として結ばれたんじゃないかと思う。
モリーナが愛する男に抱かれたのは、きっと生まれて初めてのこと。その喜び、その幸せ。
そしてもらった言葉、「誰にも踏みつけにされるな。食い物にされるな。皆に尊敬されろ」という言葉。
それだけで、彼のために命を捧げても良いと思ったんだろうな。
まるで人魚姫みたいに。

モリーナは息絶え、バレンティンは凄惨なリンチにより病室へ運び込まれる。見かねた医師がモルヒネを注射すると、バレンティンは夢の中へ。
その夢にも、切ない思いで胸が締め付けられた。



無駄に思えるシーンがひとつもなく、檻の中で2人が心を通わせる経過が丁寧に描かれてる。
劇中の映画の回想シーンもクラシカルで美しい。
モリーナの愛の告白のシーンから先は涙、涙…
テーマ曲のバイオリンの旋律も切なく心に響く。

30年越しに素晴らしい映画と再会しました。
湯っ子

湯っ子