櫻イミト

メキシコ万歳の櫻イミトのレビュー・感想・評価

メキシコ万歳(1979年製作の映画)
3.0
エイゼンシュテイン監督の未完の作品。「十月」(1928)「全線」(1929)の後、1930年にハリウッド資本からの招聘を受け製作開始したが、意見相違から中断放棄された。本作は、およそ50年後にアレクサンドロフ助監督(「全線」「センチメンタル・ロマンス」(1930)の共同監督)がフィルムをかき集め編集したもの。

オープニングにアレクサンドロフ助監督が顔出しで制作経緯を語る。前半はアステカ遺跡、メキシコの若い女性、祭り、闘牛、テキーラの原料となる巨大な竜舌蘭(リュウゼツラン)の農作風景の活写。後半は農民の恋人同士がブルジョア支配階級から虐待を受け・・・ここで撮影中断の経緯を再び助監督が語り、エピローグに”死者の祭り”が映される。。。

故郷ソ連とは気候が正反対の南国を、エイゼンシュタイン監督が生き生きと切り取っている。強度のあるクローズアップ、遺跡や祭の偶像モンタージュ、さらにこれまでには無かったトリッキーな構図(後の実相寺アングル)がふんだんに取り入れられ、エイゼンシュタイン監督ならではの画作りが楽しめる。これまでの映画でも素人を演者として民衆の情念を描いてきた作風は、土地が変わっても同様に発揮されている。闘牛シーンは、ロージ監督の闘牛士映画「真実の瞬間」(1965)以上に惹きつけるものがあり、エイゼンシュタインの映像センスの豊かさが伺い知れた。

未完なのは残念だが、前半は「サン・ソレイユ」(1983)に通底するドキュメントの魅力、後半は反権力魂とメキシコ労働者への連帯感がひしひしと感じられ、見所の多い一本だった。
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