半兵衛

博奕打ち 流れ者の半兵衛のレビュー・感想・評価

博奕打ち 流れ者(1970年製作の映画)
3.8
いかにもこの時期の鶴田浩二主演らしい、典型的な任侠映画なのだけれど山下耕作監督の風格ある演出が見ごたえのある佳作に昇華させている。そしてかつて鶴田浩二とともに殴り込みに参加し、怪我をしたもののその手柄を自分に譲ってもらう条件で殴り込みから逃げた親分に保護され、数年たった今でも養ってもらっている酒浸りの水島道太郎の複雑なキャラクターがベタな物語展開に人生の苦味と奥深さのスパイスを加えている。

あとこの映画で最も評価すべきは画面内に役者を三角の角に配置(三角構図、漫画では手塚治虫をはじめよく使っている)してそれぞれの立場や感情を間接的に伝えるのが凄い上手いことで、例えば立っている鶴田浩二と水島道太郎の間に座っている藤純子を置いて彼女が好きな鶴田と彼との交際に反対する兄の水島の狭間で悩んで苦しんでいることを見ている人に伝える。あと悪い親分とその子分の間に鶴田と縁のある待田京介を三角の角のように置くことで、彼が正義の人鶴田を助けようとしているも親分に様々な義理や思惑によって縛られ、子分たちに監視されていることを示唆する…他にも三角構図が様々な形で巧みに使用されており、芸術的な粋にまで達していると言っても過言ではない。

それから藤と鶴田が出逢うシーンで落ちた櫛が割れるのだが、最初は特に誇張もされずに処理されているのだが後半鶴田が悪い親分との出入りに向かう展開になるときその割れる櫛のシーンがアップでインサートされることにより二人の運命に不穏な影をよぎらせるところも上手い。そしてアップになるとき血のような赤い絨毯がバックになるのが山下監督らしい。

ただゲスト的出演の若山富三郎の出番が物語にまったく絡んでいない強引な出方なのが興ざめ、確かに映画黄金期にはよくある話ではあるけど無理矢理過ぎる。それでも鶴田と若山の二人が殴り込むシーンのど迫力はさすがだけれど。

それまでベタな任侠に厚いキャラだった鶴田がヤクザ映画の美学に逆らうかのように生への執念を見せるラストが印象的。
半兵衛

半兵衛