ひでぞう

兄とその妹のひでぞうのレビュー・感想・評価

兄とその妹(1939年製作の映画)
3.2
東京の俸給生活者:間宮敬介(佐分利信)、妻あき子(三宅邦子)、そして敬介の妹文子(桑野通子)の家庭が丁寧に描かれる。敬介は東京商科(現.一橋大)であり、文子に求婚する有田道夫(上原謙)はオックスフォードと、明らかに上層の俸給生活者であり、その洋風な暮らしぶりがよくわかる。現在からみれば、それほど取り立てて珍しいものでもなかろうが、箱根にハイキングに出かけたり、そこでコーヒーを煎れて飲んだりと、1939年当時の農村社会からみれば、隔絶した世界が描かれている。
 敬介の会社において、卑劣にも、敬介を貶めようとする男と、それをラスト近くで敬介が殴り倒すという、一種の勧善懲悪の筋書きが軸にはなっている。そして、最後には、敬介が会社を辞めて、満州へと旅立つということで、「夢と希望」を示そうとする。当時は、それが胸躍るハッピーエンドなラストなのだろうが、現在の地点からみると、皮肉にも悲惨な結末に思えてしまう。むしろ、なぜ、会社に卑劣漢を訴えて、その悪行を摘発しないのか、そのほうがよほどすっきりする。
 いずれにしても、桑野通子は、ここでのバリバリのキャリアウーマンの文子も、『有りがとうさん』での、はすっぱな黒襟の女も、見事に演じている。感心する。
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